前半9-25の劣勢からの大逆転劇。
「アウェーで、良くない状況から逆転するというのは底力がないとできない。地力がついてきたのかなというのは感じる。自信を持っていい」(SO立川理道)
間違いなく、過去に見られなかった逞しさを感じさせる勝ち方で、ワールドカップ2大会連続で引き分け中のカナダとの因縁に完全にケリをつけたと言っていいエディージャパン。前半3トライを奪われた相手を後半は無得点に抑え、逆に3トライを奪ってホームチームを奈落の底に突き落とす原動力になったのは、特に3つのポイントで顕著と言えた「試合の中での修正能力の高さ」だった。
ひとつ目のポイントはスクラム。
前半3分のファーストスクラム。マイボールにプレッシャーをかけられて、SH田中史朗がノックオン。直後にカナダボールとなったスクラムからフェイズを重ねられて先制トライを奪われるなど、序盤は日本の劣勢は明らかだった。
「少し個人で組んでいた部分もあったし、向こうの高さに合わせてしまったところもあった」(HO堀江翔太副将)
それが、後半は14分にスクラムを押し込んだ末にPGで加点するなど、フィジカルで優るカナダを8人の力で圧倒してみせた。
「スクラムに関してハーフタイムに修正したのはフロントローの部分。三上にもっと左足引けとか、バインドの時にもっとプレッシャーかけようとか。スクラムコーチのマルク・ダルマゾが相手の分析もしてくれていて、この選手が入ってきたら絶対いけるというのも指示が出ていた」(FLリーチ マイケル主将)
後半11分に途中出場したLO伊藤鐘史も「外から試合を見て、テンポを上げないといけないだろうなと思っていたが、セットプレーでは結構できた。スクラムもいい感じだったし、ラインアウトのコールとかもバッチリで、気持ちよかった」と、後半のセットに関しての手応えに胸を張った。
2つ目のポイントはDF(ディフェンス)。
「テリブル」
ジョーンズHCがそのひと言で斬り捨てたとおり、シンビンでひとり少ない状況とはいえ、37分にキックオフからカナダにノーホイッスルトライを奪われたプレーに象徴されるとおり、前半は簡単にフィジカルなカナダのアタックにゲインラインを明け渡すケースが目立った。
前半の守りの破綻に関して、新たにDF担当としてジャパンのスタッフに加わっているリー・ジョーンズ コーチは以下のように説明する。
「一番の問題はファーストコンタクトの部分。スクラムも安定しなかったために、いったん下がった地点から相手を追うような状況が多かった。後半はコンタクトエリアで対等に戦えるようになったので、DFラインも前に出ることができるようになった。後半はツーマンタックルなども要所に見られるようになって、接点で負けなくなった。前に出られていれば、コンタクトエリアはイージになる」
カナダが完全に足が止まっていたという面があるといはいえ、後半無失点は特別なチームしかできないものでもあるだろう。
そして、3つ目のポイントは10番、12番というアタックの指令塔部分が自分たちが仕事をする最適なポジショニングを見つけたこと。
「前半は僕とハル(SO立川理道)が狙われてパニックになった。後半、ちょっとハルを深くして、僕が前に出てというアライメント変えて良くなった」(CTB田村優)
後半1分のWTB藤田慶和のトライは立川のブレイクから生まれたもの。同21分にはラインアウトから生まれたスペースを田村自身が切り裂くなど、ダブル指令塔とも言えるふたりの決定的な仕事ぶりが大逆転劇に結びついたのは間違いないところ。
もちろん、「後半はセットプレーが良かったので安心してできた」と立川自身が振り返ったとおり、指令塔が指令塔らしく仕事できたのもタイトファイブを中心にセットでも、コンタクトエリアでも後半は対等以上に戦えたから。
セットと接点での優位性がDFの安定につながったのはL.ジョーンズ コーチが語ったとおり。
「日本のスクラムが強いなんておかしいかもしれないが、それが現実だ」(ジョーンズHC)
「FWが体を張れたのが一番嬉しい」(HO堀江副将)
本物のテストマッチで苦しい状況に追い込まれながら、ラグビーの最もコアと言っていい部分で完璧なまでに修正のできるジャパン。それは、過去には存在しなかったと断言してもいいだろう。
あるいは、「世界一、環境がいいんじゃないか」とジョーンズHCが印象を語った舞台装置は、ワールドラグビーにおけるメインステージではなかったかもしれない。
それでも、バンクーバー郊外バーナビーにあるスワンガードスタジアムをフルハウスにした6000人を超える熱心なカナダのファンの前で、日本代表が新たなジャパンスタンダードを示して見せたのは間違いない。