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【直江光信コラム】 高校生はすごいんです。

2014.01.23

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 年末年始は花園ラグビー場で2週間、全国高校大会を取材した。

 3つのグラウンドで7日間に渡って50試合が行われるこの大会では、ひとりですべての試合をカバーするのは難しい。キックオフが同時刻に重なり、見たかったのに見られなかった…という試合が必ずいくつか出てくる。あとから「あのゲーム、おもしろかったよ」と聞かされて、悔しい思いをすることもしばしばだ。

 そんな状況だから、何度も出場している学校なのに花園で見るのは久々、というケースが時々ある。しばらくぶりにそのプレーに接して、たくましく成長した姿に驚嘆する、ということも。今大会でも、そんな新鮮でうれしい驚きがたくさんあった。

 12月27日の1回戦、高知県代表の土佐塾は関商工の強力FWの前に5-27で敗れながら、切れ味あるライン攻撃で随所に鋭い輝きを放った。SH武田侑一郎、SO松原一樹のHB団がテンポよく左右に球を散らし、FB金崎廉太朗を軸に外のスピードランナーが思い切りよくスペースへ走り込む。巧みなハンドリングスキルと強みを生かした攻め方に、地道なトレーニングの成果と指導力が表れていた。

 FWの平均体重は72.3キロ。スクラムは毎回きっちり1.5メートル押され、がっちりモールを組まれたら前進を止めるのは難しかった。それでも全員がFLのような8人は懸命に走り続け、ブレイクダウンで体を張った。FWが黙々と下働きに徹し、BKで活路を見出す戦いぶりは、確かな可能性を感じさせた。

 「FWが強いチームはFWでゲームを崩せる。でもウチはそんな戦い方はできない。そういう相手に対抗するために、いまおるメンバーでどれだけやれるか、ということに取り組んできた1年間でした。おもしろいラグビーをやっていましたし、その部分はある程度出せたかな、と」(西村保久監督)

 昨年の花園では1回戦で國學院栃木に0-93と大敗。「今年はたとえ0点でもいいゲームをしなければ、という思いが強くあった」と西村監督は言う。今回のチームに3年生は3人だけ。来季はこの日出場した選手のうち12人が残る。ぜひ、このまま歩みを進めていってほしい。

 同じく1回戦で平工業に12−14と惜敗した若狭の戦いぶりにも胸を打たれた。重量FWを誇る平工業のアタックに勇敢なタックルで刺さり続け、たびたびブレイクダウンでボールを奪取。シンプルなムーブで間(ま)を作り、スパッと縦に切り裂くライン攻撃は鮮やかだった。SH小西祥平主将のよく伸びるパスと密集周辺の穴を見つけ出す眼力、使命感を感じさせる突進も強く印象に残った。

 久々に花園へ「帰ってきた」チームの戦いぶりにも、苦難を乗り越えたたくましさと進歩のあとはにじんだ。54年ぶり出場の浦和高校の鍛え抜かれたリアクションスピードと前に出るタックル、22年ぶり出場の目黒学院の強みをシンプルかつ前面に押し出した効果的な攻め、12年ぶり出場の大津緑洋の試合終盤の渾身の組織ディフェンスは、大会を彩る大切なハイライトだった。

 23年ぶりに出場した九州学院のひたむきで思い切りのいい攻守も、観客席に爽やかな風を運んだ。パスや当たり、タックルなどの基本スキルがしっかりと鍛えられており、15人一体で戦うという意志が随所に見てとれた。このクラスのゲームを重ね、全国上位校のスピードに慣れてくれば、もう一段プレーのレベルは上がるだろう。

 上位勢の最高峰の激突には、「もはや高校ラグビーもここまできたか」という感心があった。

 優勝を遂げた東海大仰星のボールの動きが止まらない攻撃、整備された組織の上に成り立つ決死のディフェンスは見事だった。準優勝の桐蔭学園のどこまでも攻め続ける意志、それを可能にするスキルと強靭な肉体も圧巻だった。準決勝で東海大仰星と死闘を演じた東福岡のグラウンド幅をいっぱいに使ったワイドなラインアタックは、ニュージーランドの強豪クラブのそれを想起させた。

 鮮やかなまでのその攻守に、かつて東福岡の谷崎重幸前監督(現法政大学監督)の語った言葉がよみがえった。

 「高校生なのにここまでできてすごいですね、と言われますが、それは間違い。高校生はすごいんです」

 そう。高校生は本当にすごい。そして高校ラグビーは日ごと月ごとにたえず進歩している。その目覚ましい変貌ぶりに、「日本ラグビーの将来はきっと大丈夫」と頼もしく感じた今回の花園だった。

【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。

(写真:第93回全国高校大会 1回戦 土佐塾×関商工より/撮影:AKIHIRO HAYANAMI)

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