先制トライを生み出した筑波大NO8山本浩輝の突進
(撮影:松本かおり)
残り5分での逆転劇だったけれど、勝者の側には確信があった。
国立競技場で1月2日に行われた大学選手権準決勝第2試合・筑波大×東海大は、28−26で国立大学が笑った。筑波大は2年連続で大舞台を踏み、この試合の勝利で初のファイナリストに。1月13日、4連覇を狙う帝京大と戦うことになった。
勝利は、チームの誰もが「筑波らしい」と口にしたキックチャージからのトライで決まった。後半35分。その直前、東海大に許した逆転トライ直後(23−26)のリスタートで、途中出場のLO藤田幸一郎が大仕事をする。深く蹴りこんだキックオフボールを外に蹴り出そうとした東海大SO阪本圭輔に襲いかかったのが藤田だ。タッチを狙ったキックに対し、身を挺して飛び込むと見事にキックチャージ成功。弾んだボールを拾ったFL粕谷俊輔がインゴールに飛び込んだ。
勝負をわけた時間帯の心境を、筑波大FB内田啓太主将が振り返る。
「逆転されたとき、『7分あれば自分たちは(トライを)とれる。焦らないでやろう』と確認しあったんです」
殊勲のキックチャージに対しても、主将は淡々と語った。
「いつもやっていることですから」
関東大学対抗戦でも、勝負どころでたびたび見られた鋭いチャージ。個々がそれぞれの仕事に集中すれば起こる『必然』と、主将は胸を張った
風下でキックオフを迎えた勝者は、前半は苦しんだ。キックでエリアをとられ、大型FWで圧力をかけてきた東海大。それでも筑波大は、SO片桐康策が積極的に球を動かして相手ゴール前に迫ったが、「取り急いで」(古川拓生監督)先制トライ(前半6分)以降は得点を伸ばせない。東海大FWとBKの連係の良さ、そしてBKラインのムーヴに攻略されて3トライ、21点を許して前半を5−21とリードされた。
しかし、それでも焦らなかったメンタリティーが勝利を呼ぶ。風上に立った後半はキックも絡めて敵陣に進入し、ボールを手にして攻め続ける。10分にPGで差を詰めると、16分にLO鶴谷昌隆、23分にFB内田啓太がトライを決め逆転。そして、最後の勝負どころを制して勝利を手にした。
「はやく先制トライをとれた影響で取り急ぎ、ミスが出た。だから後半はディフェンスから立て直そうと言ったが、それを実践できた選手たちは素晴らしかった。クロスゲームに勝って、さらに成長できたと思う」
そう語った古川監督の横で、内田啓太主将も笑った。
「去年の準決勝では帝京に序盤にリードされ、そのまま負けた。今年も最初は同じ展開になったけど勝てた。成長できているのだと思います」
以前から、「ファイナルで帝京とやりたい」と言い続けてきたスカイブルーのジャージー。最高の舞台に立つ権利を手にした。
筑波大・内田啓太主将が「前半とられたトライは、東海大のムーヴの精度が素晴らしかったから」と称えたように、東海大も立派だった。大きくて動けるFWを作り上げた。息の合ったBKラインは決定力あり。木村季由監督も、「前半に相手にもっとダメージを与えられなかったのが最後に走られた原因だが、選手たちはいい試合をしてくれた」と教え子たちに誇りを感じていた。
SO阪本主将も同じ気持ちだった。
「後半にキープ・ザ・ボールができなかったけれど、最後までチャレンジできた。持っているものは出し切れた」
記者会見場では拍手が起こり、部屋を出て行く2人に送られた。