ラグビーリパブリック

ネクスト  竹中 清(スポーツライター)

2012.12.08

 東北学院大の選手たちは11月、九州王者と東海チャンピオンに完敗し、挑戦を終えた。きっと、ふがいなさを感じながら、国分町で苦い酒をガッツリ飲んだことだろう。「しゃーねぇーべ」とヘラヘラ笑って、悔しさを簡単に忘れるような男たちではないもの、ガクインの生徒は。
 仕事関係の方から、「母校の後輩、残念だったね」と言っていただいた。でもボクはちょっと誇らしい。違う運動部のOBだし、20歳近くも離れた後輩と交流は一切ないのだけれど、彼らは東北学院大の看板を背負って、初めて全国大学ラグビー選手権大会の歴史に名を刻んでくれた。一所懸命やったはずだ。今年は、「おめでとう」でいいと思う。来年は、もっとたくましくなると期待しています。



 大学の後輩が今シーズンの戦いを終えた日の夜、高校時代のラグビー部の友人たちが十数年ぶりに電話をくれた。みな上機嫌だったのだけれど、あとから電話口に出たシンキチがいきなり、「なんやコラ!」と言った。
「なんやコラってなんやコラ! どげんしたとね」
「ごめん、ちょうどイチヤンと喧嘩しとったったい」
 いまにも取っ組み合いを始めそうだった相手は、長崎南山高校ラグビー部の市山良充監督だったらしい。2人は師弟関係。3年ぶり3度目の花園行きを決めた恩師をお祝いしようと、22年前の教え子たちが集まって、一緒に美味い酒を飲んでいたのだ。ちなみに、シンキチたちは高校ラガーマンの聖地でプレーしたことはない。後輩たちの長崎県制覇に大喜びしながらも、昔話に花が咲くにつれ、悔しさを思い出して闘志に火がついたのだろう。アニキのような存在の市山先生も熱血漢だから、遠慮なく感情をぶつけ合って、また仲良く杯を交わしたであろうことは容易に想像できる。
 わが母校、高校の後輩たちも全国への挑戦権を得た。おめでとう。



 ボクはラグビー部ではなかったし、どんなに酔っぱらっても市山先生に「なんやコラ!」なんて言わない、と思うけれど、シンキチと同じくらい、この先生には熱くさせられた。
 13年前、南山が海星を破って初めて花園出場を決めたとき、今はなき某ラグビー雑誌で、初めて署名入りリポートを書かせてもらった。タイトルは『夢をつかもう!』。リード文には、夢を目前にした、県予選決勝ハーフタイムでの市山先生の言葉をそのまま引用した。



「前半とスタート一緒、気持ち一緒。たった30分やないか。人生の中でたった30分ぞ! サポート。サポート遅れずに皆で付け。前に出ろ、前ぞ!」



 負けたら終わりの大勝負。40+40、30+30のどちらでも、精魂込めた主人公と脇役は、胸打つ短編映画を作る。本人のなかで、メモリーはセピア色になっても、きっと消えない。数十年後、多少脚色したっていいじゃないか。あのとき、君がバリバリ頑張っていたことに変わりはない。



 全国大学選手権のセカンドステージが始まり、もうすぐ高校生たちの花園も開幕する。
 すでに夢破れてしまった若人たちは、今どうしているのだろうか。



 この秋、多くの勇姿を見て、胸に迫るいろんな言葉を聞いた。
 福岡県高校決勝でヒガシを倒せなかった井上尚馬選手だが、涙の乾いた笑顔で、「3年間、筑紫でラグビーをやってよかったです」と言った。
 力強く長崎北陽台を引っ張った中尾隼太キャプテンは、南山との決勝で、終盤の同点チャンスだったコンバージョンを左ポストに当て、2点差で花園行きを逃した。「焦りはありませんでした。キックも、何度も何度も練習してきましたが、外れることもあります……」。
 東北学院大と同じように、初出場の全国大学選手権ファーストステージで堂々と戦った朝日大の石原裕介主将は、「今までにない注目を浴び、すばらしい舞台でラグビーをさせていただきました。感謝の気持ちでいっぱいの選手権、初体験でした」と言って胸を張った。



 志高き少年、青年たちよ、まだ人生の序盤だ。勝負はこれから。
 前に出ろ、前ぞ!


 そして、あなたが培ったサポート精神も、どうぞ忘れないでください。



(文・写真/竹中 清)

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