東芝戦後、サポーターから拍手を送られるキヤノンの選手たち
(撮影:BBM)
10年目を迎えたトップリーグ(TL)がおもしろい。シーズン序盤とあって各チームともまだ熟成の過程だが、成長途上ゆえの生き生きとした意欲と勇猛なチャレンジ精神が、リーグ全体に活力を与えている。一般的にミスマッチの基準とされる30点差以上のゲームは、第4節を終えた時点で28試合中5試合。その数字以上に、引き締まった試合が多いというのが取材する側の実感だ。
そして、その紛れもない立役者となっているのが、今シーズンよりTLに昇格した2チーム、キヤノンイーグルスと九州電力キューデンヴォルテクスである。
現在の順位はキヤノンが1勝3敗の10位、九州電力は0勝4敗の12位。そこだけ切り取れば、特筆すべき点はあまりない。しかし両者がここまでの試合で放ったインパクトは、星取り表から想像するイメージよりはるかに大きい。
キヤノンは初戦で昨季12位のNTTドコモを38−14で破り、記念すべきTL初勝利を挙げた。第2節ではサントリーやパナソニックの猛者たちですら顔をしかめる東芝の激しいコンタクトにも堂々と渡り合い、7点差以内の敗戦で勝ち点1を獲得。続く神戸製鋼戦、サントリー戦も、勝ち点は拾えなかったものの十分に勝ち負けを意識できる内容だった。
選手一人ひとりを見れば上位チームのような華やかさはない。しかしキヤノンには確固たるスタイルがある。「自分たちは格下なのだ」という覚悟があって、いつでも、どんな相手にも身の丈にあったラグビーをする。スコアや時間を計算して力を配分するようなところがない。その姿勢がいい方向に作用している。
「自分たちにとって初めてのTL。勝ちも負けもすべてが財産になる」
東芝戦後の和田拓キャプテンのコメントである。まるで迷いのない表情から、メディア向けに準備した言葉ではなく本心からそう思っていることが伝わった。おそらくはチーム全員がそう信じているのだろう。だから何が起こってもポジティブにとらえることができる。こうなればチームは強い。
もうひとつの昇格チーム、九州電力は、必勝を期して臨んだ福岡サニックスとの開幕戦に13−31と敗れたところからよく立ち直った。ハイライトとなったのは第2節サントリー戦だ。CTB黒木孝太を中心とした鋭く間合いを詰めるシャローディフェンスで、リーグ随一の破壊力を誇る相手の波状攻撃をたびたび寸断。FB荒牧佑輔の思い切りのいい仕掛けも奏効し、最終スコアは29−34ながらトライ数では5本対4本と上回った。タックルであれほどスタンドが沸いた試合は、本当に久しぶりだった。
続くトヨタ自動車戦は、一時0−19と大きくリードされながら後半猛烈に追い上げ、最後はワンチャンスで逆転という状況まで詰め寄った。もちろんこの日もチームは一撃必殺のビッグタックルを連発。あまりの迫力に、アウェーにもかかわらず試合終盤は逆転の気配が色濃く漂った。
結果的に九州電力はこの後、近鉄にも敗れ、いまのところ勝利を挙げられてはいない。それでも全敗で降格した3年前のシーズンのような絶望的な雰囲気は皆無だ。サントリーに5点差、トヨタ自動車とは4点差だから「大魚を逃した」印象はもちろんある。しかしそれとて「あそこでひとつでも勝っていれば…」という悲壮感より、「十分勝てた試合だった」という手応えのほうが近い。
「この試合では、4トライ以上取るというターゲットを明確にして臨みました。我々のやってきたスコアラグビーをやりきる。4トライ以上取れば、勝ち負けにこだわらなくても自然と勝負になるから、と」(平田輝志監督/サントリー戦後の談話)
キヤノン同様、九州電力も自分たちのスタイルを鮮明に打ち出すことで、国内最高峰のリーグに生き抜いていく道を見出した。己を知り、チーム全体で迷いなくひとつの方向に進むことができれば、突破口は開ける。このあたりはTLですっかり独自のポジションを確立した福岡サニックス、第2節にパナソニックから金星を挙げたNTTコミュニケーションズなどにも共通する、躍進の必須要素といえるだろう。
来シーズンはTL参加チームが現在の14から16に拡大される。そのため、今季は自動降格がない。こうした背景も、昇格チームや昨年までの下位チームが大胆な方針に舵を切る一助となっているのはたしかだ。
第4節でキヤノンに42−17で勝利した試合後、ゲームキャプテンを務めたサントリーのPR畠山健介が口にした言葉は興味深い。
「(キヤノンは)すごくラグビーを楽しんでいるし、思い切ってプレーしているのが伝わってくる。九州電力にしてもそうですが、今年は自動降格がないので、どこも思い切ってアタックしてくるという印象がありますね」
むろん、勢いで勝ちきれるほどTLは甘くない。まだまだ試練は待ち受けるだろう。それでも目の前の結果に左右されることなく、じっくり腰を落ち着けてチーム作りに取り組める点は大きな追い風になる。きっとこれからも目の離せない存在であり続けるはずだ。
(文・直江光信)
【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。