テレビ放映権の争奪により、ヨーロッパ・ラグビー界に亀裂が走っている。
イングランド最高峰リーグの「プレミアシップ」は9月12日、英国最大の通信ネットワーク事業会社である『BT』と、4年総額1億5200万ポンド(約200億円)の放送権契約を結んだと発表した。プレミアシップは現在、衛星放送の『BSkyB』とスポーツ専門チャンネルの『ESPN』が分割してイギリスで放映しており、その額は年間1800万ポンドといわれている。つまり、BTの年間3800万ポンドは倍以上だ。
BTはサッカーのプレミアリーグ放映権も一部獲得するなど、勢いに乗っている。
今回の巨額の契約により、デジタルテレビ放送「BTビジョン」も提供しているそのテレコミュニケーション会社は、2013−14シーズンから、プレミアシップと同リーグの7人制ラグビー大会(JPモルガン・アセット・マネジメント・セブンズ)を独占的に生放送できることになった。また、2014−15シーズンから3年間は、欧州大会におけるイングランド勢(プレミアシップチーム)の試合も、専有権があるという。
しかし、これに異議を唱えたのが、欧州2大大会の「ハイネケンカップ」と「欧州チャレンジカップ」を統轄しているヨーロピアン・ラグビー・カップ・リミテッド(ERC)だ。ERCは、プレミアシップとBT側から発表があった数時間後、欧州大会の独占放映権は『BSkyB』のものだと反論した。
ERCは今年6月、現在放映権を持つBSkyB(Sky Sports)と、2014年秋から4年間、2017−18シーズンが終了するまで契約を延長することで合意した。欧州最強クラブを決めるハイネケンカップの、プール戦6ラウンドと、決勝戦を含むノックアウトステージ全試合を、英国とアイルランドの全域で独占的に生放送するというもの。
そもそも、欧州大会に参加する6協会(イングランド、スコットランド、ウエールズ、アイルランド、フランス、イタリア)は、ERCだけにトーナメントの放送権を売る権限を委任しているとERCは主張する。そして、2012年6月6日に行われたERCの会議にはプレミアシップの代表者も出席しており、BSkyBとの契約延長は満場一致で決定したことを強調している。
また、IRB(国際ラグビーボード)の規定には、「いかなるラグビー団体、クラブ、人またはこれらが共同したものも、試合開催場所を管轄する協会から事前に明文の書面による同意を得た場合を除いて、試合の放送権に関する交渉を行ったり、契約を締結したり、契約によって利益を得たりしてはならない」とあり、ERCは、プレミアシップ側がやったことはIRBのルールに違反しているのではないかと疑問を呈した。
それに対しプレミアシップ側は、RFU(イングランド・ラグビー協会)のルールのもと、独自で交渉できることになっていると反論。さらに、ERCが放送権の交渉をできるのは2014年までであり、それ以降は、プレミアシップチームが関係する欧州試合の放送権について、ERCに売る権利はない、と対立姿勢を見せた。
欧州大会のハイネケンカップをめぐっては、問題は放送権ばかりではない。イングランド勢(プレミアシップ)とフランス勢(トップ14)が大会フォーマットの変更を強く求めており、要求が通らない場合は大会離脱も辞さない構えだ。同大会では過去7シーズンのうち、セルティックリーグに属するアイルランド勢が5回も優勝しており、セルティックリーグに有利なフォーマットになっている、というのがイングランド、フランス側の言い分である。
2014年以降、ハイネケンカップが存在するのかどうかはわからないが、ヨーロッパ・ラグビー界に亀裂が入ったことは確かであり、テレビ放映権については裁判所で決着をつけるしかないとの見方が強まっている。