関西随一の才能集団、常翔学園のSO後藤大輔がパスした先へ、束になった複数人が突っ込む。球を奪う。石見智翠館はそんな場面を何度も作った。鍛えられた相手にマイボールを獲られ、攻められた後半ロスタイムも逃げ切った。2012年4月6日、熊谷ラグビー場。全国高校選抜大会の準決勝を15−12で制し、春冬通じて初の決勝進出を決めた。
前身の大阪工大高時代から通算し、冬の全国大会では4度優勝、前年度も4強入りした強豪が相手だった。「(選手に)細かいことを言い過ぎても厳しい。(守備で)シンプルに上がり続けよう、と」と安藤哲治監督。「前倒ししたら皆で行こう」と皆が意識したと、LO山口翔は話す。タックルが上手く決まった地点に、周りの人間が固まってラッシュを仕掛けるという意味だ。それをそのまま、当日の勝因とした。
7日、大会2連覇中の東福岡と戦う。安藤監督は「何も考えられません」と無我夢中の様子である。
他方、敗れた野上友一監督は肩を落とした。「こっちはいつも通り。相手のディフェンスがそれを上回っていた」。好素材たちのぶつ切れの攻撃を、もどかしそうに見つめた。
(文・向 風見也)