ラグビーリパブリック

カーターに笑顔再び 最高のハッピーエンドへ

2011.10.21

 オールブラックスの司令塔として地元開催ワールドカップでエリスカップ(優勝杯)を掲げることを夢見ながら、プール戦終盤の練習中に負傷し、涙の離脱を余儀なくされたダン・カーター。20日、オークランド市内のホテルで記者会見を行い、時には笑顔を見せながら現在の心境などを語った。
 左足付け根の内転筋断裂後、オーストラリアのメルボルンで受けた手術は成功し、来季スーパーラグビーでの復活に気持ちは向いているというカーター。「基本的に焦るつもりはないです。リハビリをしっかりやって、再びプレーできるように準備をしたいと思います」。
 故障して離脱が決まったときは「かなり感情的になり、怒り散らしていたかもしれません」。
 まだスコッドのなかにいて、チームメイトにアドバイスしている間は気持ちも落ち着いていたが、準々決勝アルゼンチン戦と準決勝オーストラリア戦を外から観たときはさすがにつらかったという。
 「とても神経質になっていましたね。仲間がフィールドで活躍する姿を外野から観るのは本当にタフでした。いつもなら自分がフィールドに立ってゲームに変化をつけようと動いていたはずなのに、それがどうすることもできないですから。試合中はゲームに入り込んだあまりずっと独り言を繰り返して、仲間に何度か『黙れ!』と言われました。それくらい熱くなっていたんです」。振り返るカーターには笑顔が戻っていた。
 カーターを欠いたいま、オールブラックスで10番をつけるのは22歳のアーロン・クルーデンだ。“臨時コーチ”として若きSOにできる限りのアドバイスを与えたカーターは、落ち着いて大舞台で戦っているクルーデンを高く評価している。「彼は前からずっとチームにいたかのように溶け込んでいますね。最大限の力を発揮しようと奮闘しているのがわかります。アーロンには本当に感心しました。ピリ(SHウィップー)が彼のプレッシャーを軽減してくれているのも大きいと思います」。
 決勝はもちろん、オールブラックスの勝利を信じている。しかし、過去何度もフランスに苦汁を飲まされ、予測できない彼らは非常に危険な相手であると警戒感をあらわにした。
 「エキサイティングなバックスはもちろんですが、ルースFWトリオもデンジャラスです。ボール運びはパワフルで、ラックのシチュエーションやスクラムも強いですから、楽観はできません」。
 今年2月にはカーターの出身地であるクライストチャーチで大地震があった。自分はワールドカップの舞台に立つことはできないが、オールブラックスにはクライストチャーチを本拠地とするカンタベリーの選手も多く、被災地の人々のためにも優勝したいという思いは強い。
 「残念なことにクライストチャーチではワールドカップの試合は開催されず、人々は悲しい思いをしたと思いますが、もし日曜日に勝つことができれば、きっと元気を取り戻してくれるに違いありません。選手たちはやってくれるはずです」。
 決戦の日は、ゆっくりコーヒーを飲んでキックオフを待つと笑ったカーター。ノーサイドの瞬間、たとえスタンドの観客席に座っていたとしても、24年ぶりにエリスカップが母国に戻ってくるならば最高のハッピーエンドだ。


(文・竹中 清/オークランド)


 



4年間はあまりにも長すぎると次回W杯への明言を避けたカーター。しかし、復活への闘志はみなぎっている


 

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