日本代表の今年の「HSBCアジア5カ国対抗(A5N)2011」キャンペーンは終わったが、6月1日からもう一つのアジアの戦いが始まる。日本が参加したA5Nの「Top 5」に続く2部に当たる「Division I」。韓国、シンガポール、マレーシア、そして、フィリピンが「Top 5」への昇格をかけて韓国で相まみえる。
3月に香港で開かれた7人制大会に出場した女子フィリピン代表のスタッフが自慢げに教えてくれた。「実は、フィリピンは日本と共にA5Nの無敗記録を持っているんだ」
確かに、2008年に始まったA5Nで、フィリピンは当時5部相当だった「Regional」から一度も負けずに「Division I」まで上がってきている。多くの日本人にとって思いがけないアジアの国でも、ラグビーの熱気は高まっている。
フィリピンだけではない。日本がA5Nの第2戦、対カザフスタンを戦ったバンコクでは直前に「Division II」も行われたが、現地で観戦した「デイリーヨミウリ」紙のリッチー・フリーマン記者によると、昇格をかけた台湾−タイ戦などは「これまでに見たことのないほど激しい肉弾戦」だったという。
確実に高まっているアジアのラグビー熱。これを更に一段上のレベルに上げてくれるのが、ワールドカップ出場という具体的な目標だ。
今年のニュージーランド大会まで、アジアの1枠は常に日本が獲得してきた。特に21世紀になってからは予選の試合は大差続きで、日本以外の国にはワールドカップを現実的な目標としてとらえようがない状況が続いている。
しかし、今年のワールドカップで日本が2勝を挙げれば、IRBが出場国の決定方法を変えない限り、全く新しい地平がアジアに開けることになる。日本が予選免除で次回2015年大会の出場権を得るからだ。
A5Nで日本を苦しめた香港代表のダイ・リース監督、トム・マッコール主将は口をそろえて「4年後は香港もワールドカップを目指したい」と日本の戦いに期待する。
「日本を除く」アジアの頂点に立てばワールドカップに出られるという実現可能な目標ができれば、当然、「Top 5」の各国は今よりも強化に力を入れるだろう。いや、むしろ、ワールドカップに「出なければならない」と言うべきか。日本に大差を付けられている現状のままでワールドカップに出場すれば、見るも無惨な結果になるのは目に見えている。
もちろん、そんなことは当事者が一番予想できるはず。焦点をアジアを超えて世界に置いた準備を始めるはずだ。それは日本が世界と戦うためにトップリーグを立ち上げたように、こと代表チームの強化だけにとどまらず、国内の環境整備なども含めたものになるだろう。
アジア上位の各国が大がかりな改革を伴う強化に取り組めば、その成果はアジア代表になる国一国にとどまらないはずだ。プレーオフに回る2位国も、これまで以上に良い戦いができるはず。2015年では勝てなくても、2019年にはもしかしたら、と夢は広がる。
そうなれば、日本開催のワールドカップでは、4つのプールのうち3プールにアジアの国が入ることになる。現時点では、あくまで夢物語だが、ワールドカップでの2勝は、これを現実の話にする第一歩になる。
アジアの出場国数について考える時、苦い思い出が蘇ってくる。
南アフリカで開かれた1995年のワールドカップだ。当時は16だった出場国数が、次回の1999年から20に増えることが決まっていた。「アジアも増枠になるかも知れない」と高まった期待は、しかし、あの試合のおかげで見事に打ち壊された。「日本17−145ニュージーランド」。日本はアジアのラグビー界に大きな借りがあることになる。
「最低2勝を目指す」というジョン・カーワンヘッドコーチの言葉について、「2勝では決勝トーナメントに進めない。それが目標ならおかしい」と指摘する同業他社の記者もいる。
それは、その通り。でも、今年のワールドカップでの2勝は、目標でも期待でもない。それはアジアに対する日本の義務。これまで16年間債務返済を怠ってきた日本ラグビー界だが、「Tender for Asia」を掲げてワールドカップ開催を勝ち取ったのだから、今大会こそアジアに対する責任を果たして欲しい。
ジャーナリスト
美土路昭一
(写真:2010年のアジア5カ国対抗「「Division ?」で優勝したフィリピン代表」)