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早大の10番が感じた早明戦。岸岡智樹が試合運びを振り返る。


相手10番の松尾将太郎と激しくぶつかる岸岡智樹(撮影:松本かおり)


 スタンドには公式で「22,256人」のファンが集まり、ひとつのタックルが劇的なトライの直後のような歓声を呼ぶ。

 12月2日、東京・秩父宮ラグビー場。関東大学対抗戦Aの早明戦の舞台は、今年も学生選手の心を乱した。

 明大は防御のつながりを乱した。11月18日には同じ場所で大学選手権9連覇中の帝京大をハードワークで苦しめ、23−15で勝利していたのだが。「いいメイジと悪いメイジがある」とは、あるレギュラー選手だ。

 かたや早大も自陣での落球などでピンチを迎えたのだが、この人は、落ち着いていた。

「1年生の時に比べたら、場慣れ、ではないですが、いままでで一番多い観客数の試合を楽しめたかなという感じです」

 岸岡智樹。身長173センチ、体重84キロのSOだ。東海大仰星高から自己推薦で入学。ルーキーイヤーからレギュラーに定着し、3年目のいまはゲーム主将のような立場を任されている。この日はミスをした下級生にも優しいまなざしを向ける。過去の自分を重ね合わせる。

「僕も1年生の時にチャンスでノックオンしたことがあるんですけど、そういう時に先輩から『次、頑張れよ』と励ましてくれると『まぁ、いっか』と軽い気持ちに思えた。きょうはそういう声かけもできたかなと。活躍もしてくれるので、頼もしい後輩です」

 注目点のひとつに、陣地を獲りあう際の駆け引きがあった。

 岸岡は11月23日、秩父宮での慶大戦において長短織り交ぜたキックを披露。相手を敵陣にくぎ付けにして、21−14で白星を挙げている。勝てば対抗戦優勝を決められるこの日も似たようなパフォーマンスが期待されたが、7−0で迎えた前半10分ごろ、思わぬ失策を犯す。

 ハーフ線付近での攻撃のさなかに向かって左前方へキックを放つが、対するWTBの高橋汰地が落下地点の正面に回ってキャッチ。もともとランが得意な高橋は、早大側から見て左側のスペースに鋭く蹴り込む。明大が勢いよく前に出る一方、虚を突かれた早大が慌てて戻る。接点で反則を犯す。

 14分、対する松尾将太郎のペナルティゴール成功で7−3と点差を詰められた。岸岡は自らを戒める。

「あそこは僕のキックがよくなかったこともあったのですけど…。1回のミスで自陣にくぎ付けにされていて、逆に、(その後の場面では)相手の1回のミスで相手を自陣にくぎ付けにもできた。できることを伸ばしつつ、できないことの回数を減らす。そうしないと、明大さんのようにFWの強いチームに(自陣での)ラインアウトを競られたりして、失点につながる。後ろ(キックの蹴り合い)を任されている人間なので味方FWを前に出すのが一番の目的ですけど、これからは相手を前に出させないことにもフォーカスしていけたらなと思います」

 やられたらやり返す。直後の攻防では敵陣に高いキックを蹴り上げ、明大の捕球ミスを誘発。20分、早大はSHの齋藤直人のペナルティゴールで10−3とした。

 さらに背番号10は、新しいカードを切る。自陣からのカウンターアタックだ。

 10−6と4点リードで迎えた前半30分、自陣10メートルエリア左で相手のキックを捕球すると、目の前の防御を見定めて駆け上がる。右斜め前に進みながら、一転、左へコースチェンジ。2人並んだタックラーの間を抜け出し、一気に敵陣22メートルエリアに入る。右へパスするそぶりを見せ、左端にいたNO8の丸尾崇真にフィニッシュさせる。齋藤のゴールキックもあり、早大は17−6とリードを広げた。

 かねてから岸岡は「明大さんは相手が僕らであるかどうかに限らず、カウンターがしたいのだと思っていて」。早大が自陣でボールを持っている時、明大が自陣に3人以上の選手を配していたためだ。

 このカウンターを決めた瞬間も「前(の防御網)が薄いなと思って、実際、その時は後ろに(キックに備えて)3人くらいいた」と岸岡。キック多用の慶大戦を引き合いに出し、こうまとめるのだった。

「慶大戦だったら蹴っていた自陣10メートルから敵陣10メートルまでのエリアでもカウンターをしよう、というプランもあった。それを体現できたのは収穫かと思います」

 敵陣に進んでからのパス回しでも、「相手のディフェンスを乱すことをできていた」。味方にハードワークを課して決定打を放ったのは、24−13のスコアで迎えた後半19分だった。

 敵陣22メートルエリア。早大は相手の落としたボールを拾い、左端まで動かす。ここからSHの齋藤が右へ、右へとパスをさばくなか、右後方に立っていた岸岡は「ショーゴ! ショーゴ!」と叫ぶ。左に立っていた中野将伍を、自身の右後方へ立たせるためだ。

 齋藤がさばいたボールを、岸岡の前にいたPRの鶴川達彦が受け取る。その鶴川からボールを受け取った岸岡は、右後方の深い角度へパスを放つ。そちらへ中野が駆け込み、飛び出した防御と入れ違いになるような形で突破を決めた。トライとゴールが決まり、31−13。岸岡は安堵した。

「中野君本人はきつくて行きたくないと言ってましたけど、あそこは(中野が)行かないとトライが取れない。いい判断でした。トライになれば、疲れも嬉しさに変わる」

 試合終盤はエンジンのかかった明大に連続トライを奪われるも、31−27で逃げ切る。かくして帝京大との対抗戦同時優勝を決めた。大学選手権への準備に入る。早大にとっての初戦は22日の準々決勝で、慶大と京産大との3回戦の勝者と秩父宮でぶつかる。

「相手にパスをつながせない、相手にスペースと考える時間を与えない」という防御もさらに磨き、2008年度以来16度目の日本一を狙う。
(文:向 風見也)

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