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メイジ復活を支える「昇格請負人」は フランスリーグでプレーするはずだった!?


明治大の伊藤宏明BKコーチ


 近年稀にみる混戦状況の大学ラグビーで、今季、最も注目を集めているのが、絶対王者・帝京大を倒す有力候補と目される明治大だ。その明大で、今季就任した田中澄憲新監督の右腕となっているのが伊藤宏明BKコーチ。明大からサントリーに進んで2000年代初頭の黄金時代を築き、サニックス、クボタ、NTTドコモでプレーした司令塔は、実は日本人では珍しい、イタリアでのプレー経験も持っていた。今季、WOWOWで毎節2試合を放送するフランスリーグTOP14のハーフタイム企画「世界挑戦の系譜」に登場する伊藤コーチが、自身の現役時代や指導歴を振り返り、そして現在指導に当たる学生へのメッセージを送る。(素材提供:WOWOW)


――伊藤さんは、日本人では数少ないヨーロッパでのプレー経験、それもイタリアでプレーした経験をお持ちですね。

「イタリアへ行ったのは2003年です。その前の年に、当時はサントリーにいたんですが、オーストラリアへ1ヵ月留学させてもらったんです。そのときがすごく楽しくて、海外でやりたいという思いが強くなりました。オーストラリアのときはブランビーズへ行きました。前にサントリーでヘッドコーチをしていたエディー・ジョーンズさん(現イングランド代表ヘッドコーチ)が当時ブランビーズのヘッドコーチをしていたんです。向こうではクラブチームでの試合にも出してもらって、けっこうレベルの高い経験を積むことができて、世界でやれるという自信もついたんです。その前の年にサントリーで日本選手権にも優勝していたし、『世界に出て行ってみようかな』という思いでした」

――イタリアへ行くことはどのように決まったのですか?

「最初はフランスに行くはずだったんです。実は、ボルドーに入ることが決まっていたんですよ。ところが、いざフランスに行ってみたら、クラブが財政難で下部リーグに落ちて、契約できないとなってしまったんです。それから急遽、他のクラブのトライアウトを受けたんですが、ちょうどそのころフランスリーグは外国人枠が縮小されていた時期で、EU圏以外の選手は2人しか入れなかったんです。どこのクラブにもニュージーランドやオーストラリア、フィジーとかの選手がいて、日本人選手を採ってもらうのは難しかったですね。カストル・オランピックとか『Bチームでの契約なら採ってもいいよ』と提案してきたクラブもありましたが、せっかく行くんだからトップチームでやりたかった。そこで、外国人枠がもっと緩かったイタリアのクラブを紹介してもらって、トライアウトを受けたのがパドヴァとラクイラ。採るよと先に言ってくれたのがラクイラだったんです」

――急遽決まったんですね。イタリアリーグでの最初の印象はどんなものでしたか。

「もともとフランスに行くはずだったので、フランス語は勉強していたんですが、イタリア語はまったく(笑)。あいさつを覚えるのが精一杯で、次の日の練習時間を聞き取るのからして大変でした。
ラクイラはイタリアでも田舎の方で、英語の通じる人がほとんどいないんですよ。クラブにはアルゼンチン人の選手も多かったのですが、彼らも『スペイン語が全然通じない』と悲鳴をあげていました。ラグビーの面では、それほどレベルは高いと感じなかった。フィジカルは強いけれど、スキルレベルは決して高くない。日本のトップチームだったら、イタリアのトップチームにきっと勝てると思いました。実際、サントリーは(2001年に)ウェールズに勝ったし、(2002年には)サラセンズとも良い勝負をしていましたからね。サントリーはラクイラに勝てたと思いますよ」

――言葉が分からないことで苦労もあったのでしょうね。

「それが、そうでもないんですよ。僕は日本でもたくさん移籍したけれど、移籍する度にまず覚えなきゃならないのは新しいチームのサインなんです。その意味では日本もイタリアも同じなんですね、覚える言葉がイタリア語に変わるだけで(笑)。あとは右とか左とか付け加えるだけで大概のことは済みますから。
ただ、苦労じゃないけど、文化の違いは感じましたね。よく覚えているのは、イタリアに行って2試合目くらいかな、最後に僕が逆転トライを取って勝った試合があったんです。その試合は結構注目された試合で、テレビでも放送されていたんですが、クラブハウスに帰ってきたら、テレビを見ていた人から『何でお前は喜ばないんだ?もっと喜べ!』と言われたんですよ。僕的には十分喜んでいたつもりなんですが、ラテンの人たちから見たら喜んでるうちに入らなかったみたいです。
あとは、これもラテン気質というのかな、練習中の仲間内のケンカがすごく多いんです。すぐにそこかしこで取っ組合いが始まる。でも練習が終わって、気がつくと抱き合って仲良くしてる。それがほぼ毎日のことなんです(笑)。
あと印象的なのは移動のバスですね。イタリアリーグはホーム&アウェーなので、2週に一度は片道7〜8時間かけてアウェーの試合に行ったのですが、日本の選手はバス移動のときはほとんど寝てるけれど、イタリアの選手たちはずっとバスの中で立ってしゃべり続けるんですよ。8時間ずっと。これはすごいと思いました。僕は座って寝てましたが(笑)。アルゼンチン人たちも僕と同じでしたね。
休みの日は、アルゼンチンの選手なんかと一緒によくサッカーをやりましたよ。連中はやっぱりサッカーの国で育ってるから、みんな上手い。当時は中田英寿選手がイタリアに行った頃だったから、僕は日本人ってだけで「ナカタ、ナカタ」と呼ばれてました」

――伊藤さんは2003年のワールドカップにバックアップメンバーとして帯同していましたね。あのとき『みんなが頑張っている姿を見て、僕も早くラグビーをしたくなりました』と言った伊藤さんの言葉が印象的です。

「あのときはSOに選ばれていたのはアンディ・ミラーと廣瀬佳司さんの2人だったんですが、ミラーがケガあがりで、いつダメになるか分からない、バックアップ要因が必要だと言うことで呼ばれていたんです。イタリアのシーズンは始まっていたけれど、代表の要請だったらと言うことでクラブも了承してくれた。でも2試合が終わって、ミラーもどうやら大丈夫だということで、これだったら自分がいなくても大丈夫だろうと思って、向井監督に話して、一足先にチームを離れさせてもらったんです。早くラグビーをしたいという思いがありましたから」

――イタリアで1シーズンプレーした後は、帰国してサニックス、クボタ、NTTドコモでプレーしました。新しいチームに行ってプレーするのは難しいこともあったのではないでしょうか。

「確かにサニックスへ行ったときなどは、知ってる選手が誰もいなかった。だけど、そもそもイタリアへ行ったときも知ってる人なんて一人もいなかったけど、それでも何とかなった。それを思えば、苦労なんて十分の一もないです(笑)。
しばらく経った頃に『考えて見たら、オレ、よくイタリアまで行ったなあ。会社やめて、よく行ったなあ』と思ったりもしましたけど。日本に帰ってきてからも、下部に落ちていたサニックスをトップリーグに上げて、クボタのあとNTTドコモもトップリーグに上げて、引退した後はコーチとしてだけど日野自動車をトップリーグに上げた。九州、関西、関東と、三地域それぞれからトップリーグに昇格させたことで、社会人ラグビーでの仕事は果たせたんじゃないかな(笑)」

――今季からは明大のコーチを務めておられますが、学生にはどのように育って欲しいと思って指導されていますか。

「実際にコーチとして明治に来て改めて感じたのは、明治には能力の高い選手が揃っているということです。ただ、高校から大学にあがってきたばかりで、自分の持っている力をどう使ったらいいかをまだ理解できていない選手が多い。なので、ラグビーに対する理解度の高い選手を育てたいと思っています。選手は一人一人、目標にしているゴール地点は違うと思うんです。日本代表を目指している選手にはそうなれるように手助けをしたいし、BやCからAにあがることを目標としている選手もいるし、一日一日をやりきることに専念している選手もいる。それぞれの立場の選手がラグビーを全うしながら、明治大学というチームで日本一を経験させたいと思っているんです。
でも、僕自身、コーチをしながら勉強させてもらっているという思いの方が強いですね。去年の日野にしても、今の明治にしても、そのときに与えられた仕事をして、目の前にいる選手がよりよいパフォーマンスができるようにサポートしていくことだと思っています。将来どんなコーチになりたいとか、そういうことは全然考えていませんね」

[プロフィール]
伊藤宏明(いとう・ひろあき)
1975年11月17日、大阪府生まれ。ポジションはスタンドオフ。
大阪工大高から明大に進学し、3年のシーズンにSOのレギュラーを獲得。同期の田中澄憲とハーフ団を組み、大学選手権優勝。4年のシーズンは決勝で関東学院大に敗れ準優勝。サントリーに進み、2001、2002年度の全国社会人大会、日本選手権優勝に貢献。2003年、サントリーを退団してイタリアのラクイラに移籍、日本人で初めてイタリアでフルシーズン、プレーした選手となる。同年、ワールドカップ・オーストラリア大会にバックアップメンバーとして帯同するなど日本代表キャップ2。2004年に帰国してサニックスに入団、以後クボタ、NTTドコモでプレーし、2012年度を最後に引退。その後は日野自動車(現日野レッドドルフィンズ)でコーチを務め、今季から明大バックスコーチ。


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