コラム

【向 風見也コラム】「この人が選んでいるのならしょうがない」

12月2日、対抗戦・早明戦に臨むSH齋藤直人(撮影:松本かおり)


■もしセレクターにできることがあるのなら、それは万人に「この人が選んでいるのならしょうがない」と思わせるだけの熱量と明確な基準を示すことくらいだろう。戦前の賛否両論をなかったことにしてしまえる試合結果もまた。


 ラグビー日本代表がイングランド遠征に出かけていた晩秋。ナショナルチームの選から漏れた面々は国内トップリーグのカップ戦などに出ていた。

 11月17日は神奈川のニッパツ三ツ沢球技場に、レギュラーシーズン2連覇中のサントリーが登場する。背番号5をつけたのは真壁伸弥だ。突進役や接点への援護役を全うするのはもちろん、モールの前衛としてリコーの防御を自らの懐へ引き寄せる。不安定な判定に両軍首脳がフラストレーションを抱えるなか、14−10で勝った。

――いいモール、組まれていました。

ウイスキー関連の資格を有する31歳は、かような取材記者の問いかけに「モールばっかりやってるから」。ユーモラスかつ簡潔な言葉選びで、反復練習の大切さを訴えていた。

「一貫して同じことやってますよ。ずーーっと。ずーーーつと。ずーーーーっと。やることは大体決まっていて、そこにプライドを持てるかどうか。最近は自分たちの武器として練習でも本当にアグレッシブに行くようになってきた。いい感じですね」

 身長193キロ、体重125キロのLOで、2015年にはワールドカップイングランド大会の日本代表として活躍。当時のボスだったエディー・ジョーンズからは、大会の4年前から「ワールドカップの4試合でリザーブに入ってもらう」といったプランを伝えられていたという。一つひとつのコンタクトの重さ、モールなど踏ん張りの必要なシーンでの馬力が買われたのだろう。

 ジェイミー・ジョセフ ヘッドコーチ率いる現代表でも、LOは選手層に限りがあると見られていて、真壁は貴重かつ希少な存在にもなりえた。ところが今秋ツアーに際しては、9月発表のツアー参加候補リストからも漏れた。

 きっと本人は、悔しい思いを抱えているのでは。そう思うファンやジャーナリストもいなくはないのだが、その手の仮説に真壁自身は早口で応じた。

「パフォーマンス的に絶対に選ばれないと思った。色々あって。だから、サントリーで走って、強くなってから、ちょっとでもセレクトにかかればいいなと思っています。はい。個人的に今年は無理だろうなと思っていました。必要とされるレベルではなかった。シーズン序盤に体調を持ってこられなかった。もう1回、ハードワークする。僕が買われているところは運動量だけなので。でかいのに、走れる、と。それができなかったら選ばれない。それを、トップリーグの序盤でできなかった。それだけです」

 2名の記者の取材に応じたのは、スーツに着替えてチームバスに乗り込む瞬間だった。「今年は無理だろう」という謙虚な談話を額面通りに受け取るかどうかは、その2名の心次第である。もっともサントリーのモールについて語る「やることは大体決まっていて、そこにプライドを持てるかどうか」という意識は、要所のラインアウトエラーに泣く日本代表のカンフル剤となりそうではあった。関係者によれば、今回のツアー中のミーティングでジョセフがラインアウトについて話す際、真壁が加わって飛んだ映像をサンプルに用いていたという。

 だから「今年は無理だろう」という本人の見立てにも、異なる角度の質問が跳ね返ってくるのだった。

――いま代表に加われば、セットプレーの強化に貢献できるのでは。
 
 少し、間が開く。最後は「それはやっている本人にしかわからない」と、実際に選ばれているメンバーを気遣う見解が漏れるのみだった。

日本時間で翌日未明、ジャパンはイングランド代表と対戦予定だった。真壁は「きょうはチームの皆と焼き肉を食べながら、見ようかと思います!」と笑って車内へ入った。

 かたや敗れたリコーの松橋周平は、「入れたいと言わせてやる、見てろよ、という感じです」。2016年に初の代表入りも、翌年秋に右ひざ前十字靭帯のけがを負ったFW第3列。25歳の誕生日を間近に控えたこの日も、術後から取り組んできた新しいトレーニングの成果を突進時のフットワークなどに反映させていた。

 今年9月からのトップリーグでは好調を維持。タックルされながら球を繋ぐオフロードパス、接点の球に絡みつくジャッカルなど、現代表のスタイルになじむプレーも磨いている最中だ。

「アタック、ディフェンス、ブレイクダウン。すべての局面において、もっと高いレベルでやりたいと思っています。もっと、もっとできることがある」としながら、この秋の代表ツアーについてゆけなかったことはただただ悔しいとした。

 ジョセフからのアプローチはあったかと聞かれれば、「見ているからとは言われていますが、細かいあれ(フィードバック)はない」。身長180センチ、体重99キロ。自身と似た体格の日本人選手や自身より大きな海外出身者に敬意を示しながらも、自分が誰よりも強くなれると信じている。アスリート松橋の、そこが強みだ。

「僕としては怪我もありましたけど、この11月(秋の代表ツアー)をターゲットに照準を合わせていたつもりだったので…。ただ、そこ(代表)にいないというのが現実で、それは変えられない。いまある環境でいつ呼ばれてもいいように、逆に呼びたいと思われるくらいのプレーをやり続ける。それだけです」

 2人のいない日本代表がイングランド代表に15−35で敗れて数日後、東京の早大上井草グラウンドに複数名のメディア関係者が集まっていた。早大の練習をカバーするためだ。

 特に注目されたのは、3年生SHの齋藤直人。春先には代表候補に相当するナショナル・デベロップメントスコッドに加わり、スーパーラグビーの予備軍とのゲームで緩急自在の球さばきを披露。その後、一時は2019年のワールドカップ日本大会に向けたトレーニングスコッドにもリストアップされていた。

 11月にはその隊列から名前を消してしまっていたが、23日、都内の秩父宮ラグビー場での慶大戦ではテンポを首尾よくコントロール。試合終盤は防御ラインのカバーでも光り、21−14で勝利する。

 そのプレーには、日没後の上井草グラウンドで語った思いが反映されていたような。

――これからずっとラグビーをしていくつもりだと思いますが、どんな選手になってゆきたいですか。

「どこのチームに行ってもずっと必要とされる選手、と言うとざっくりですけど、どこにいても声が聞こえて、どこ画面にも映っている、みたいな。それも闇雲に動くんじゃなく、考えたうえでのハードワークというか」

 普段から他人に褒められ続け、そのたびに「まだまだ」と返答する。しかしこの時ばかりは、ほんの少しだけ自尊心ものぞかせていた。

「あと、いまでもここは自信を持ってやれていると思うんですけど、常に、高みを目指す。いまの自分に満足せず努力し続けられる選手でいたいなと。何が必要かを考え、それをやり続けられる選手。いつもは何が得意とかは言わないですけど、そこは、自信あります。最後は周りが評価することなんですけど、何が必要かは常に考えて、努力できていると思います」

 いまの日本代表の選手選考は、間違いなくジェイミー・ジョセフ現ヘッドコーチの専権事項である。

 乱暴を承知で言えば、誰をどのポジションで選ぼうがジョセフの勝手だ。だからこそ第三者からの「なぜ〇〇を選ぶ(もしくはその逆)」といった類の異議申し立てがあっても、ジョセフは自信を持って自身の見解を明かすだろうし、もしその説明に不足があると本人が思えば、より鮮明にプレゼンテーションをしたり、選考対象選手のリチェックに時間をかけたりするはずだ。
 
 そもそも、他人が他人を選んだり除外したりするセレクションという作業において、万人を納得させることなど不可能に近い。もしセレクターにできることがあるのなら、それは万人に「この人が選んでいるのならしょうがない」と思わせるだけの熱量と明確な基準を示すことくらいだろう。戦前の賛否両論をなかったことにしてしまえる試合結果もまた。

 もっとも、代表に選ばれたくても選ばれていない選手が「この人が選んでいるのならしょうがない」と思うのはそう多くあることではない。
 
 本稿執筆時点では真壁や松橋らトップリーグ勢は順位決定戦に参戦していて、齋藤ら強豪校の大学生は全国大学選手権に向けて準備中である。

 一方でジョセフは、離日中の見込みだ。

【筆者プロフィール】
向 風見也(むかい・ふみや)
1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学部卒。2006年よりスポーツライターとなり、主にラグビーに関するリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「スポルティーバ」「スポーツナビ」「ラグビーリパブリック」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)。『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(共著/双葉社)。『サンウルブズの挑戦』(双葉社)。
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