コラム

【直江光信コラム】花園と熊谷。こけら落としに感じたこと

新装なった熊谷ラグビー場(撮影:松本かおり)

■歴史的なワールドカップを成功させるために、これほど多くの方々が思いを持って大会に携わり、いろいろな場面で尽力されている−−

 10月20日の熊谷ラグビー場と、同26日の東大阪市花園ラグビー場。この秋、ラグビーワールドカップに向け新装された2つのスタジアムのこけら落としの試合を取材した。

 熊谷はトップリーグのパナソニック−キヤノン戦、花園は日本代表−世界選抜戦と、試合のカテゴリーは若干違いがあったが、どちらの日にも共通していたのは、来年のワールドカップ本番を意識した運営だった。いよいよ開幕まで1年を切り、今後それまでの間に来場者が1万人を大きく超える規模のイベントを開催する機会は、決して多くはない。現場レベルでは特に、改修後最初の試合を華々しく祝おうというムードよりも、重要なリハーサルととらえる空気が強く感じられた。

 最寄り駅から試合会場まで距離がある熊谷では、熊谷駅前のロータリーよりも多くの台数をさばける市役所前のスペースから無料のシャトルバスが運行されたほか、近隣の大駐車場に自家用車を停めてそこからバスで来場するパークアンドバスライドも実施されるなど、様々なアイデアでアクセスの向上が図られていた。周辺は交通規制が敷かれ、シャトルバスは渋滞などに足止めされることなくスムースに到着した。降車場からスタジアムまで徒歩で10分ほどかかるのはややおっくうだったが、その道のりに飲食物やお土産、グッズなどを販売するブースなどが並べば、退屈することなく歩けるだろう。

 施設内の動線や記者会見場もワールドカップを想定した仕様で、報道控え室と記者席の移動や設備にいくつもの配慮がなされているのに感心した。ひと通り取材を終えたあと、試合運営に携わる知人の先生から、「何か気づいたこと、気になったことはありませんでしたか?」と聞かれた。「まずい部分があれば、何でも言ってください」とも。この機会にあらゆる課題をあぶり出し、本番までにそれらを解決しようという強い意気込みを感じて、頭の下がる思いだった。

 花園は徒歩で来場できる駅が複数あるのに加え、年末年始の全国高校大会で毎年万単位の観戦者を迎えてきた経験があるからか、アクセスの面で熊谷ほど大がかりな措置はなかったが、それでもスタジアム周辺で交通整理にあたる警察官やスタッフの姿を数多く目にした。代表戦とあって報道陣の数も多く、対戦相手は選手やスタッフのほとんどが外国人だっただけに、こちらもワールドカップに向けた貴重なシミュレーションの機会となったのではないか。

 初めて観る花園でのナイトゲームは、日中のゲームとはまた違う趣があっていい雰囲気だった。四隅に立つ照明塔とメインスタンドの屋根に設置されたライトによってピッチは十分な明るさがあり、大型ビジョンでリプレイ映像を見られるようになったことで、観戦の醍醐味が大きく広がった。かつての面影をほどよく残しつつ、様々な面で世界基準を満たすスタジアムに進化したという印象だ。ワールドカップ本番でさらにブラッシュアップされた花園の姿を目にするのが、楽しみになった。

 同様の感覚は、日本代表対オールブラックス戦が行われた11月3日の味の素スタジアムでもあった。臨時バスを降りた直後からボランティアスタッフがいたるところでファンのサポートにあたり、様々な場所で人の流れや混雑状況をチェックする自治体の関係者とおぼしき人たちを見かけた。ワールドカップまでにできる準備は、徹底的にやっておきたい。会場のあちこちで、そんな熱意をひしひしと感じた。

 そしてあらためて、ワールドカップのような世界的イベントの開催は、想像を絶するほどたくさんの方々の支えがあってはじめて実現できるのだ、ということを痛感した。観戦に訪れる人が多くなればなるほど、現場ではいろいろなトラブルが起こる。まして今回は、世界中の言葉も文化も違う国から多様なファンや関係者、メディアが集まってくる桁外れの巨大イベントだ。そうした人々に、一生記憶に残るような素敵な時間を過ごしてもらうためには、ありとあらゆることを事前に想定し、対応策を準備しておかなければならない。

 ラグビーの伝統国以外ではじめて行われる歴史的なワールドカップを成功させるために、これほど多くの方々が思いを持って大会に携わり、いろいろな場面で尽力されている――。そのことに触れて、深い感謝とともに、大きな心強さを感じた。そして、もっと自分にもできることがあり、もっともっと懸命に取り組まなければならないと身の引き締まる思いがした。

 どこが勝つにせよ、訪れたすべての方々に「すばらしい大会だった」と喜んでもらえるワールドカップにしましょう!


熊谷ラグビー場。かつてのバックが正面スタンドに(撮影:松本かおり)


【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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