コラム

【成見宏樹コラム】煮いかとタロイモのスコッド。

8月19日の菅平合宿。早大は帝京大を8年ぶりに破った(28-14)。ワセダもまた、今年の色が気になるチームの一つ(撮影:上野弘明)


■大学は留学生3人制。トップリーグは短期戦。今季は、ハードウエアがものを言う勝負になるのだろうか

編集部の建物の向かいにある広場から、和太鼓の響きや盆踊りの調子が聞こえてくる。外に出ると、汗だくの子どもが全力で後ろから追い越していった。

フランクや焼きそばの油のいい匂いが流れてきて、友人の言葉を思い出した。

茨城は古河出身、いま東京で小さなバーを営む彼には、お祭りと言えばこれ、という味があるという。

「にいか ですよ。 にいか って、聞いたことないすか?」

ニイカ?

屋台で500円、いかを煮た食べ物。食紅で染まった身厚ないか、やわらかい歯ざわり、鼻へ抜ける香ばしさ。お祭りと言えば、その匂いと肉感が思い出されるそうだ。子どもも大人も必ず買った。家ではなぜか、まず食べられなかった。

「どうしても食べたくなる時がある」と、同じような褐色の肌で言うのは、埼玉県東松山市の大東文化大学4年、ファカタヴァ兄弟のタラウの方だ。トンガから18歳でやってきて4年目の夏。ラグビー部合宿所の食堂で甲子園中継が流れるような昼下がり、どうしても故郷の料理が食べたくなったらどうするか。ラグビーマガジン最新号134ページに涙ぐましいレシピが公開されている。

生まれた土地や国や年代によって違うだろう「あの味」は、そこまで人の鼻や舌や胸に残る。そんなかけがえのないピースが無数に集まったものが人かもしれない。

大東文化の4年生エース2人、アマトとタラウが、今年から留学生枠が3人に広がったことを受けて話していたことが面白かった。

「2人から3人になって変わるのは、コミュニケーション」

「フィールドにいる人数が『FWに2人だけ』なのと、『BKにもう一人いる』では、全体が全然違う」

そのような環境でやるシーズンが今から楽しみだと、双子そろって目を輝かせて伝えてくれた。


大東大は、留学生受け入れのパイオニアだ。

38年前の1980年の春、大東大にやってきたノホムリ君とホポイ君は、算盤の勉強で大東大に学び、合宿所に寝起きしてチームメートとボールを追った、最初の留学生選手だった。のちに二人は日本代表になる。

そんなバックグラウンドを継承する大東の学生は、留学生との接し方がうらやましいほど自然だ。いじるし、笑い合うし、ケンカもしそうになるし、時には放っておいてやれる。もともと、日本全国のあらゆる地域から無名の逸材が集まって磨き合うチーム。トンガもその延長にあるだけかもしれない。

留学生3人の方がいいコミュニケーションが取れる。
そう聞いて、初めは言葉だけの問題かと思った。この大東でも、そんなものなのか。留学生はしょせん助っ人的な存在なのかと。が、そういうことではなさそうだ。

確かに言葉の問題は、時に日本語どうしでさえ難しい。言わない、分からない、伝えたはず、伝わったと思った、など特に互いが行き違うと厄介だ。

だがたぶん、ラグビーの試合におけるコミュニケーションの中核は、個々と全体の文化の問題だ。

ニイカ と言われて、その姿が思い浮かぶか、祭りの夕方のわくわくした気持ちが共有できるか。それは難しいか。

スクラム と聞いて、どこまで奮い立つものを呼び起こせるか。その先にどんなタイミングでどのオプションを取りに行くのか。去年は去年の。今年は今年の。直前の3年間を共通の背景にして、チームの文化を作り、共有して、実際に相手と戦う時にそれがどんな場面に昇華するのか。現れた場面から、どんなストーリーを立てて、最後のスコアで上回ろうとするのか。

フィールドのコミュニケーションとは、そのイメージと決断と実行の連鎖だ。

日本育ちの選手達と同じだけ重要で、しかし個性がわかりやすい存在でもあるトンガ勢の意志疎通は当然重要だ。ただ、彼らが目指しているのは、留学生が活躍するチームではなくて、周りを含むいろんな個性が互いを生かし合う、「大東の」ラグビーだ。

現監督の青柳勝彦がかつてそうだったように、175aで誰よりもタフに戦うFLもいる。1994年度の大学選手権優勝を果たしたそのチームでは、留学生が活躍するほど、漢字名の選手達が輝くようだった。あのチームには、互いを生かし合うたくましくてしなやかなソフトがあった。

ラグビーは、原則からいってハードウエアがものを言う格闘だ。強くて、速くて、大きなチームが普通は有利。しかし同時に、集まる人間の力が、時々それを上回る競技でもある。

チームのソフトウエアってなんだ。一定の答えなどない、その年、そのチームだけの絵柄、色だと思う。たとえば、煮いか好きの男と、タロイモが忘れられない双子たちが、15人よりももっと大きな束で、一つひとつのピースを寄せ合って、自分たちのジャージーを染めていく。そのありようだ。

大学は留学生枠が広がり3人制になった。トップリーグはリーグ戦7試合の短期戦だ。今季は、ハードウエアがものを言う勝負になるのだろうか。

2019年の前シーズン。次々とトップリーグ加入を発表している世界のビッグネームが、そのジャージーに染まって、逆に染め上げられたりして、頂点に駆け上がったら、それも素晴らしい。

反対に、ビッグネームたちを相手に、意外なジャージーのチームの色が一番に輝いたら、と思うとそれもわくわくする。

それはどっちも、きっとラグビーの勝利だ。

さて、そろそろいきましょうか。お祭りの喧騒の止むころ、楕円球の季節の始まり、始まり。


【筆者プロフィール】
成見宏樹(なるみ・ひろき)
1972年生まれ。筑波大学体育専門学群卒業後、1995年4月、株式会社ベースボール・マガジン社入社。ラグビーマガジン編集部勤務、週刊サッカーマガジン編集部勤務、ラグビーマガジン編集部勤務(8年ぶり2回目)、ソフトテニスマガジン編集長を経て、2017年からラグビーマガジン編集部(4年ぶり3回目)、編集次長。
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