コラム

【出村謙知コラム】 西野J奮闘で再確認。U20遠藤ジャパンの正しき“チャレンジ”

世界で勝つために必要なものをチーム全体で体得した遠藤ジャパン。写真はワールドラグビーU20チャンピオンシップ、ジョージア戦後のU20日本代表FL岡山主将(撮影:出村謙知)


 ロストフでのベルギーとの激闘。
 後世に語り継がれる日本代表の試合になったのは間違いないだろう。
 個人的には、丸いボールの方のフットボール取材現場から離れて久しく、今回も日本にいてネット配信された映像をライブ観戦したに過ぎなかったのだが、94分にまさに“赤い悪魔”という異名にふさわしい電光石火のカウンターを決められて8強入りを逃した瞬間に思い浮かべたのは、ほんの2週間前までフランスで密着取材を続けていた楕円球フットボールのチームのことだった。

 サッカーの日本代表がワールドカップ初戦を戦った6月19日、19日間で5試合を戦うというハードスケジュールをこなしたラグビーのU20日本代表がフランスから帰国した。
 5月30日から6月17日まで地中海に面したペルピニャン、ナルボンヌ、ベジエという南西フランス3都市で行われていたのは、ワールドラグビーU20チャンピオンシップ。20歳以下の選手たちにとってのワールドカップと言っていい大会だ。

 またも世界16強止まりとなったサムライ・ブルーに対して、ラグビーのU20チャンピオンシップはそもそも世界トップ12が集う大会。より凝縮された世界最高峰トーナメントで日本が対戦したのはニュージーランド、オーストラリア、ウェールズ、ジョージア、アイルランド。正代表の世界ランキングで言うなら1位、5位、3位、13位、2位……当然ながら、本当の世界の強豪チームばかりだった。
 最終的には5戦5敗に終わったものの、ウェールズ、アイルランドに対してはトライ数で上回りながらの惜敗(17ー18、33ー39)。そして、ジョージアには終了10分前まで10点リードしながらの逆転負け(22ー24)。日本が勝利を収めていても誰も文句を言わなかったであろう好勝負を続け、実際、目の肥えた南西フランスの人たちからの数々の賞賛を受けながらも、世界トップ11の壁を破ることはできずにフランスを後にしている。

「こいつら、バケモノ」
 FIFAランキング3位のベルギーの選手たちのことをそんなふうに表現したのは、ロシアワールドカップ開催中に7シーズン所属したインテルからの完全移籍が発表されたサイドバックだっただろうか。
 圧倒的なフィジカルとスピードの差。
 それは、21.5インチのデスクトップパソコンに映し出される平坦な映像からも一目瞭然だったが、それでも、西野ジャパンは日本にしかできない戦い方を具現化して優勝候補を追い込んでいるように見えた。
 自分たちの特徴を最大限生かす創意工夫溢れるパフォーマンス、さらにはほんのわずかの差で目標をクリアできなかった点までもが、ほぼ同時期にフランスで「本気で世界にチャレンジ」(遠藤哲ヘッドコーチ)し続けたラグビーのU20日本代表の戦いぶりとダブったのだ。

「僕らは1対1で勝つチーム」
 U20チャンピオンシップ大会開幕前日に初めて言葉を交わした時からU20日本代表を率いるFL岡山仙治主将の言動には全くブレがなかった。
 サイズもスピードも、そして、その当然の帰結としてのパワーも劣る方がどうやって1対1で勝つというのか。
 やはり大会開幕前に話を聞いた時点で、遠藤HCは日本人が1対1で勝っていくイメージを以下のように語ってくれていた。
「1対1が最初から起きていて、同じ条件でヨーイドンとなったら、重たくて速い方が勝つだろうが、そうではなくて、最後までどこからがヨーイドンかわからなくて、最後にヨーイドンとなる局面をつくれば、集中力やキメの細かさとか、日本人にしかできない伝統工芸ができる。最後の最後まで2オプションを持ちながらプレーを続け、実際にはボールはひとつなので最後にワン・オン・ワンになるイメージ」

 ワールドカップ開幕まで2か月に迫った時点で指揮官が交代し、西野朗監督が率いるかたちとなったサッカーの日本代表。ロシアからの映像で判断する限り、このチームは日本人の特徴を生かしながら相手の特徴を消していくうまい戦いをするチームだったなと、門外漢な指摘をしてもそう的外れではないのではないか。

 一方、フランスで密着したラグビーU2O日本代表の場合、日本人の特徴を生かしながら世界で戦っていく指針としてQLD(キュー・エル・ディ)というキーワードが存在していた。
 Quickness(敏捷性)、Lowness(低さ)、Details(細部へのこだわり)という3つの英単語の頭文字を合わせたものだ。

 2年前のU20チャンピオンシップでも日本は今回同様5戦5敗で12位となり、降格を余儀なくされている。
 ただし、数年にわたって同大会を取材してきている唯一の日本人報道関係者として絶対的に書き記しておきたいのは、同じ5敗でも、前回と今回ではその中身が全く違うということ。
 世界と戦うチームとして圧倒的な成長が見られたことは、前述のとおりワールドランキング2、3位を相手にトライ数では上回る互角以上の戦いをしてみせた事実を挙げるだけで明らかだろう。

 遠藤HC同様、2年前の降格時に「世界の壁」を実感した経験を持つ里大輔S&Cコーチの以下のような証言が、世界で戦えるU20日本代表としての如実なベースアップを物語ってもいる。

「近場での加速能力と瞬間的に相手に対して垂直に力をかけるコンタクト。その身体操作に関しては、2年前に大きな差を感じた部分だったが、U17、U19代表とも連動して強化に取り組んできた結果、今回はすごく大きな成果が出た。加速、アクセルに重きを置いたトレーニングを積んで、U20世代における世界基準のアクセル回数をほぼ全員がかなり大きく上回るようになり、(ディフェンス局面などで)全員が揃って美しく前に出られるようになった。接点の部分でも、明らかに軽くて、遅い日本の選手たちが、しっかり突っ張り棒になるようなかたちで相手に刺さるというシーンが何度も見られて、通用する手応えをつかんだ」

 167センチ。小さなジャパンチームの中でも最小サイズながら常に体を張り続けるプレーぶりで5試合全てフル出場し、自らの存在でチームを引っ張り続けた岡山主将の世界で戦える実感も紹介しておこう。

「1対1で勝つラグビーというのを突き詰めてきて思ったのは、僕らでもこういう相手に対して1対1で全然負けてないということ。デカさ、小ささは関係ないというのがわかった」

 ちょうど20年前。当時はU19カテゴリーだった前身大会であるジュニア・ワールド・チャンピオンシップに選手として参加した経験を持つ今村友基アシスタントコーチは、「フィジカルで負けたという感覚は、選手は持っていないと思う。自分たちの時のようなひ弱さは全くないし、1試合1試合確実にレベルも上がった。これを何らかのかたちで続けていければ、彼らが3年後、4年後、フル代表になった時に十分戦える力はついていく」と、日本のユースチームの成長ぶりに関して、感慨深く述懐する。
 幸運なことに、奇しくも同じフランス開催だった20年前の世界大会も直接取材した身としても、全くの同感だ。

 遠藤ジャパンでも、西野ジャパンでも、実際に世界トップと対峙した選手とそれを支えたスタッフは、自分たちの進んでいる方向性が間違っていない確信と、その一方でそうやすやすとは超えさせてくれない世界の壁の高さ・強固さを改めて痛感していることだろう。

 勝ち切るチャンスは間違いなくあったが、そのチャンスを生かし切る絶対的な経験値が不足していたことは否めない。
 ベルギーに決勝点を決められたカウンターアタックのように、チームとして細心の注意を払いきれなかったことが致命傷につながったシーンはU20チャンピオンシップの各試合にもあった。
 後半7分の時点で2−0とリードした西野ジャパンが、大型選手を投入して「本気になった」ベルギーに対して、2点リードを守り切る術を持ち合わせていなかったのと同じように、後半30分の段階で10点をリードしていた遠藤ジャパンも、最後の10分間で自分たちが持っているもの全てを出し切って日本を潰しにきたジョージアの決死のアタックを受け止めて、試合を勝ち抜くだけのたくましさはまだ持ち合わせていなかった。

 そういう意味では、遠藤ジャパンも、西野ジャパンも、負けるべくして負けたのは確かなのだ。

 必死に背走しながらも赤い悪魔たちの圧倒的なスピードに追いつけず、そのまま芝生に突っ伏しながらこぶしを地面に叩き続けて号泣した昌子源も、最後のアイルランド戦の後のハドルで「後悔はないけど、みんなを勝たせてあげられなかったことが悔しい」とチームメイトに語りかけた岡山仙治も、「次やった時に勝つ」ためには何が必要か完全に体得したと思う。

 今回目標に届かなかったとしても、「世界で勝てる」実感を伴った敗戦には価値があるし、その価値ある敗戦を生かすことこそ、「本気でチャレンジした」者たちだけが得られる絶対的な権利であり、ある種の義務でもあるのだ。
(文:出村謙知)
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