コラム

【藤島大 コラム】 「2人」でもよかったのではないか。

花園大(関西大学Bリーグ)の留学生として、ジャパンへの道を拓いたマフィ(撮影:松本かおり)


■留学生出場枠という主題は、国籍でなく、アマチュアかプロかの観点で解決するのが筋だと思う。


 魂魄。こんぱく。死者の魂、この場合は、死にゆく者の魂だったか。

「学生スポーツはアマチュアリズムを堅持すべきである」

 1995年9月17日。元日本代表監督、このとき79歳の大西鐵之祐は言った。2日後に胸部大動脈瘤破裂により没。その言葉を受話器に聞いた人は、元早稲田大学高等学院ラグビー部長で哲学の研究者、伴一憲である。2016年7月31日、早稲田学院OB会の開いた『大西鐵之祐生誕100年シンポジウム』における講演をこう締めくくった。

「これが先生の最後の言葉でありました。魂魄をこの世に留められたのではないでしょうか」

 2018年度から大学ラグビーの「外国人同時出場枠」が現行の2人から3人に増える。トンガやニュージーランド出身の留学生を獲得できるクラブとそうでないところの差はいっそう拡大する。大学選手権の優勝争いへの影響が注目されるが、昨秋、留学生を擁せぬ下部リーグのチームのコーチは「来シーズンからの昇格の道はさらに難しい」と話した。重なる攻撃フェイズで、強力な突破役が不在の場合があるかないかは、「もともと不在の側」が守るに際して大きく違う。「ひとり増」の影響は小さくない。

 異国、一例でトンガ王国から日本の大学へ進み、日本語を覚え、仲間と過ごし、互いに異文化を知る。「ともに目標に突き進む心身の活動」という濃密な時間と空間に教育的価値がまさに創造される。そこを切り取れば悪いはずはない。実際、日本に生まれ育った部員の青春も豊かになるだろう。高校駅伝やバスケットボールでも「留学生で勝負が決まること」への批判に対して、受け入れる側の指導者や学校経営者はそのことを唱える。

 問題があるとすれば、本当の本当は、部員の異文化体験をファーストに留学生を入学させているのではない、と、みんな知っているところにある。勝つため。もっと述べれば勝って得られる学校の利益のためである。そして、そのような背景でやってきた留学生は、取材で接しても、総じて魅力に富んでおり、遠い異国に若くして渡った悲喜のまじる経験に磨かれた人格はクラブをふくよかにする。ここが救われるし、また、思考を難しくする。「留学生3人対留学生なし」の勝負の行方をどうしても考えてしまうのだ。当事者は、なお、あきらめぬ気概を抱かなくてはならない。ただ外からとらえると、とても簡単ではない。トップリーグで仮に「海外出身者なし」のチームが何勝できるだろうか。

 トンガ、サモア、フィジーなどのパシフィック・アイランダーのプロ選手は「フランス一国で400〜500人」(2017年11月、英デイリー・テレグラフ紙)。多くは2部より下のリーグに属している。ロシアやルーマニアやスペインにもいる。王者ニュージーランドも、好調のイングランドも「パシフィック」の才能をいかに自国に取り込むかを競う。そうした観点では、日本の大学の枠が広がる決定は人材の層を厚くする意味はなくはない。ふりかえれば「そろばん教育」が縁で、大東文化大学が、1980年(初年は語学習得)、ノフォムリ・タウモエフォラウ、ホポイ・タイオネ(いずれものちに日本代表)を初めてトンガから迎え入れたのは、先駆的な発想であり、後年、ジャパンがワールドカップで南アフリカを破る快挙とも無関係ではない。

 他方、大学ラグビーとはトップリーグの育成機関ではない。強豪校ですら、トップリーグから声のかかる選手は限られている。留学生でも、大学を出てから、下部リーグやクラブで機会を待つ例は少なくない。相応の数が滞留している。大半の部員は、競技生活を離れ、広く社会の一員となる。企業、家業、自由業など各領域で、おのおのが「真剣勝負に浸る大学生活だった。そういう集団で努力をしてきた」という内面の誇りとともに生きる。それが日本ラグビーの足腰となる。学生スポーツのエリート、そこまでは達しないが同じように練習に打ち込んできた者、ここがくっきり分かれないところにラグビー界のユニークな強みはあった。
 
 現時点では、高校からトップリーグへ進む道は細々としており、大学の活況は、競技を始めたり続ける動機となり、普及、強化とも結びつく。留学生が3人から4人、5人になったら、そこへ踏み切る側、そちらを選ばぬ多数の大学は分離する。

 留学生出場枠という主題は、国籍でなく、アマチュアかプロかの観点で解決するのが筋だと思う。「あのチーム、あんなにすごい施設で、どんどんうまい高校生が推薦で入って、まるでプロだな」という次元ではない。厳密にラグビーの対価として部員に払われる金銭が発生するか否かが一線である。純粋アマなら海外出身が15人でも構わない。まさに留学生なのだから。日本列島に生まれ育った部員でもラグビーで金品を手にしたらプロである。学費や寮費の免除、さまざまな奨学制度、多岐にわたる名目で処理される金額と、プロの収入をくっきり選り分けるのは難しい。統括団体が専門家に権限を与えてクラブの経理について抜き打ちの調査を施し、仮に発覚したら厳罰を科す。それで紳士的な自制をうながす。

 と、ここまで書いて、自分がつらくなる。3年前の5月、ジャパンの頼もしいナンバー8、アマナキ・レレイ・マフィにインタビューした。京都の花園大学時代をこう語った。

「3万円、毎月もらいました。1万5千、2万、トンガに送ります。残りで生活。土、日は食事がないので自炊のライスだけ食べることもよくありました」
 
 自身で「国ではとても貧しかった。ハードな生活」と明かした好漢のその3万円を厳密にアマ違反ととがめても、誰も幸福ではない。若者は救われ、飛躍し、人々を楽しませた。だからこそ何十倍もの額につながるような拡大競争には歯止めをかけたほうがよい。きてしまった人が、あとから出られなくなるのはかわいそうだ。でも初めから「2人」ならそれはそれでよいのではないか。学生スポーツはアマチュアリズムを堅持。そう強く期して、なんとか、すれすれのところに収まるのだから。


【筆者プロフィール】
藤島 大(ふじしま・だい)
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。著書に『人類のためだ。ラグビーエッセー選集』(鉄筆)、『ラグビーの情景』(ベースボール・マガジン社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン社)、『楕円の流儀 日本ラグビーの苦難』(論創社)、『知と熱 日本ラグビーの変革者・大西鉄之祐』(文藝春秋)などがある。また、ラグビーマガジンや東京新聞(中日新聞)、週刊現代などでコラム連載中。J SPORTSのラグビー中継でコメンテーターも務める。
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