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<不定期連載 壁を打ち破れ!〜サンウルブズの挑戦>  上野裕一ジャパンエスアール会長が考える日本ラグビー未来像K 最終回/トップ5入り掲げた新シーズン開幕前に書き残しておきたいこと  神風に頼らず、SANZAARの意向にも翻弄されない真の先駆集団へ

昨季までチーフスでプレーしていたリーチ マイケル日本代表主将も今季はサンウルブズでプレー
(撮影:出村謙知)


 スーパーラグビーの開幕まで1週間となりました。
 開幕第1週は南アフリカカンファレンスのみの開催となるため、ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズの2018年シーズンは2月24日のブランビーズとのホームゲームでスタートすることになります。

 サンウルブズにとっては今年がスーパーラグビー参戦3シーズン目。ジェイミー・ジョセフ新ヘッドコーチの下、トップ5を目指すことになります。
 1年目が18位、2年目が17位のサンウルブズにとって、高く険しい目標であることは間違いないわけですが、それでもあえて頂上を目指す姿勢を打ち出したのは、われわれには残された時間がそれほどないという厳然たる事実が横たわっているから。

 スーパーラグビーを統括するSANZAARとの間で交わされた契約は2020年シーズンまで。

 もちろん、過去2シーズン、サンウルブズが成し遂げてきたものに対するSANZAARの評価が決して低くないことは、当連載でも度々触れてきたとおりです。
 その一方で、スーパーラグビーというコンペティション自体、順風満帆とは言いがたく、実際に今季チーム数が削減された事実から言っても、2019年という大義がなくなった時、将来的にわれわれとSANZAARとの関係性が磐石であり続ける保証はどこにもないわけです。


 サンウルブズは、グローバルなスポーツリーグでの戦いを続けるプロフェッショナルな集団としては日本で唯一の存在です。

 そんな先駆的なチームが1年の半分ほど世界と戦い続けていることは、日本のスポーツにおけるラグビーの存在価値を高めることに寄与していることに疑念はなく、サンウルブズは将来的に日本ラグビーを背負って立つ可能性を持つ子どもたちにとってのロールモデルであり続ける使命を持っていると私自身は考えています。

 日本のラグビーは大学を頂点とするスクールスポーツでの鍛錬・成長を経て、最終的には企業がトップ選手の受け口となるチームを持つかたちで発展してきました。

 その土台に立脚しながらも、実態としてはそこから離れてグローバルスポーツビジネスとしてのチャレンジを始めたのがサンウルブズです。
 そんな新しい集団としてスタートする際に、ゆくゆくはスポーツ界の松下政経塾のようなエリート養成機関的な側面を持つ集団にしていきたいと考えたことも、当連載で既述したとおりです。

 もちろん、トップリーグに参加しているのが世界に誇るべき日本の一流企業ばかりであることから言っても、これまでも日本におけるラグビーマンたちがビジネスエリートの一翼を担ってきたのは間違いないでしょう。
 ただし、まだまだ足りない、というのが私の実感でもあります。

 一番気になるのは、日本のラグビーエリートたちは小さい頃から勝利至上主義に染められすぎていないか、ということ。
 目先の勝利を最優先するため、将来的に世界トップのプレーヤーになるためのスキルやラグビー観の醸成が軽視されてしまう。極端な話、ケガに対する正しいケアもなされなかったりする。

 本来、一番大切にするべきはずの「どういうラグビープレーヤーを育成していくのか」という観点が欠けがちだと思うのです。


 これも報道等ですでに周知の方も多いと思いますが、私は昨年の11月19日付けでアジアラグビー(アジアラグビー協会)の副会長にも就任しました。

 今後は日本のみならずアジアにおけるラグビーの発展のためにサンウルブズはどうあるべきかを、いままで以上に考えていかなくてはならないと思っています。

 当然ながら、日本だけではなく、アジアにおいてもサンウルブズは唯一の存在です。
 日本ラグビーにおける先駆の象徴であるとともに、アジアラグビーにおける先駆の象徴でもある。

 今シーズンはシンガポールでの開催が1試合のみとなりましたが、SANZAARとしても、もともと日本だけには止まらないアジアにおけるラグビーのマーケティングポテンシャルも考えて、サンウルブズをスーパーラグビーに招き入れたという側面は間違いなくある。

 だからこそ、サンウルブズはアジアの人たちから憧れを持ってもらえるような存在にならないといけない。

 例えば、日本のラグビーファンは割と抵抗感なくオールブラックスのジャージを着たりしますが、それと同じように、アジアのラグビーファンがサンウルブズのジャージを着るようになってもらいたい。

 もちろん、シンガポールなどアジア各地でのマッチメイキングも考えていく必要があるでしょうし、その一方で将来的にはアジア出身選手たちのトライアウトなども積極的にやっていきたい。

 アジアラグビーの総会にはアフガニスタン、シリア、イランなど、政情が安定しているとは言い難い協会の代表も出席します。

 いろんな地域の人たちがアジアにおけるラグビー発展のために、それこそ地を這うような活動をしている。
 紛争が続くアフガニスタンでラグビー協会を立ち上げるために奔走したのは英国人だったようですが、今後はアジアラグビーのリーダーとして日本のラグビーマンたちもどんどんアジア各地でラグビー発展につながる作業に従事していってもらいたいし、そういう仕組みもつくっていかないといけないでしょう。

 そんな地道な普及活動を経て、将来的にはアフガニスタンやシリア出身の選手がサンウルブズ入りする。
 まだまだ夢物語ではありますが、ラグビーというスポーツにはそういう力があると私自身は信じています。


 さて、これまで計12回にわたって連載してきた本コラムですが、一応、今回でひと区切りにしようと思っています。

 トップ5入りという目標を掲げたシーズン開幕前にあえて書き残しておきたいのは、われわれは“3度目の神風”を頼りにしてはいけないし、そのつもりもないということ。

 2015年ワールドカップで日本代表が南アフリカ代表を破ったことは間違いなく日本ラグビーにとっての神風となった。もちろん、それはサンウルブズの立ち上げにも大きなプラスとなりました。そして、1年目、2年目となかなか結果が出ないサンウルブズを支えてくれたファンの方々のサポートもわれわれにとっての神風でもありました。

 だからと言って、2019年に吹くかもしれない再々度の神風を祈願するばかりではいけない。

 日本で初めて単独でグローバルコンペティションに打って出たプロフェッショナルスポーツチームにふさわしく、スーパーラグビーの頂点を目指していく。
 2019年ラグビーワールドカップで何が起きようとも、そうしたわれわれの目標は変わりません。

 もちろん、私自身、2019年での日本代表の成功を祈っていますし、サンウルブズとはもともとそのために生まれた側面を持つのも事実です。

 ただし、サンウルブズ会長としては、2019年ワールドカップで最悪の事態が起きること(もちろん、それを望んではいませんが)も想定しておかないといけない。

 行動は楽天的に、思考は悲観的に、というのが私の信条でもあります。

 もちろん、将来的に協働していくパートナーはSANZAARに限らない。
 昨季まではスーパーラグビーでサンウルブズとも戦っていた南アフリカのキングズとチーターズがすでに欧州ベースのプロ14に参戦しているように、欧州の有力なプロリーグとの関係も模索していくのは、この連載でも何度も触れてきたとおり、必須でもある。

 ラグビーに限らず、企業が支えてきた日本独特のスポーツ文化が岐路を迎えているのは確かでしょう。
 もちろん、各競技でもいろんな動きがあるように、企業に支えられてきたラグビーのトップリーグもさらなる繁栄を目指してブラッシュアップしていくことになる。2019年がその分岐点になることも間違いない。

 その一方で、われわれはあくまでもプロフェッショナルに常にグローバルな動きと連動しながら、より一層魅力的な存在へと成長を続けるつもりです。


 最後に。
 本連載にて日本ラグビーの将来像を語るチャンスをいただいた『ラグビーマガジン』編集長の田村一博氏、『ラグビーリパブリック』編集担当の竹中清氏、および本連載を始めるアイデアをいただいた上で、実際の構成も担当していただいた出村謙知氏に、この場を借りて感謝の意を述べさせていただきたいと思います。

 特に、出村氏には、ご自身が海外ラグビーに精通していることもあり、本連載内容にも多くのアイデアを出していただきました。

 また、同氏は昨季のサンウルブズのアウェーゲームにおけるオフィシャルフォトグラファー兼レポーターを務めていただいたこともあり、本連載の写真のみならず、サンウルブズの公式サイトに臨場感のある写真を提供していただくと同時に深みのあるレポートも書いていただきました。

 本連載は上野裕一の名前で続けさせてもらいましたが、出村氏とのコラボレーションによって成り立っていたものです。

 世界に向けて日本ラグビーが壁を打ち破っていくため、共に戦っていただいたことに深く感謝します。

(上野裕一)


※ 構成者より
当連載の前回分(12月20日掲載分)において、ジャパンエスアール新体制に関する記述に事実関係の誤認がありましたので、該当部分を削除させていただきました。

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ムンバイで行われたアジアラグビーのエグゼクティブ・コミッティー・ミーティングで同メンバーと


<プロフィール>
上野裕一(うえの ゆういち)

ビジョンは I contribute to the world peace through the development of rugby.
1961年、山梨県出身。県立日川高校、日本体育大学出身。現役時代のポジションはSO。
同大大学院終了。オタゴ大客員研究員。流通経済大教授、同大ラグビー部監督、同CEOなどを歴任後、現在は同大学長補佐。在任中に弘前大学大学院医学研究科にて医学博士取得。
一般社団法人 ジャパンエスアール会長。アジア地域出身者では2人しかいないワールドラグビー「マスタートレーナー」(指導者養成者としての最高資格)も有する。
『ラグビー観戦メソッド 3つの遊びでスッキリわかる』(叢文社)など著書、共著、監修本など多数。

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