コラム

【直江光信 コラム】「まっすぐ」の威力。

ぎりぎりの間合いで鮮やかに相手ディフェンスを破る天理高(撮影:大泉謙也)


■大会プログラムによれば先発15人の平均身長は171aで、180aオーバーはゼロ

 少し前の話になるが、いまだ鮮烈なインパクトが脳裏に焼き付いているので書き記しておきたい。3月24日の秩父宮ラグビー場。我らがサンウルブズの防御網をひとひねりしたチーフスの「まっすぐ」が印象に残った。

 試合前のウォームアップをスタンドから見つめていて、たちまち引き込まれた。グリッドを使ったパスドリルで誰ひとり流れない。Eの字を縦に重ねているかのようにFWもBKもまっすぐ走り込み、そのままパスを放る。内でも外でもなくひたすら「まっすぐ」。コーナーを起点に攻める方向が縦横ランダムに変わる練習でも、一人ひとりの間隔が広がったり狭まったりするメニューでも、パサー、レシーバーともに上半身の胸から腰までの部分は常にゴールラインと正対する方向に保たれていた。

 いざ試合が始まると、「まっすぐ」の威力をまざまざと見せつけられた。マークするトイメンがまっすぐ走ってくると、ディフェンダーは外に流すことができない。相手が大きく強く速い選手になればなおさらだ。インサイドに切れ込んでくれば内側からのブロックが止めてくれるし、外に流れればスライドしてタッチライン側で囲むこともできる、しかしまっすぐ走られるとその選手に詰めざるを得なくなる。だから、幅10メートルでの4対3といった「余っているけどほとんど余っていないようなシチュエーション」でも、きっちりひとりがひとりを引きつけてオーバーラップを仕留め切れる。

 チーフスが見事だったのは、どの選手も一切緩むことなくそれをやり切るところだ。ラグビーをやっていれば誰もが「ボールを持ったらまっすぐ走ることが大事」と教わるし、世界中のコーチがそう教える。しかし実際にそれを試合で遂行するのは簡単ではない。内側からの圧力を感じると走るコースがよれてしまいがちだし、外にスペースが見えればついそこをめがけて走りたくなる。そうやって流れた瞬間、オーバーラップの優位性はたちまち消失する。

「ニュージーランドの選手の何がすごいかと言えば、どんな時も基本を徹底できること」

 楕円球の王国と称される彼の地のクラブでボールを追ったり、その出身者とともにプレーした選手からよく聞くフレーズだ。ラグビーの原理原則にのっとった基礎となる部分が揺るがないからこそ、あれだけ華麗でダイナミックなパフォーマンスを展開できる。ちなみにチーフスの選手たちはボールキャリー時にタックルを受けて倒される際、自分の体と地面の間でボールをプレスするようにして倒れ、ジャッカルに来る相手に絡まれないよう激しく上半身を反転させて味方側にボールを置くことも徹底しており、それによってスピーディーなボールリサイクル→連続攻撃を可能にしていた。

 そして、そんなことを考えながら3月末から4月上旬にかけて埼玉県熊谷市で行われた全国高校選抜大会を取材していると、ここでも衝撃的な光景に遭遇した。天理高校の研ぎ澄まされた日本刀のような鋭いラインアタックと、群を抜く速さの連続展開である。

 天理高校は伝統的に「小よく大を制するラグビー」を追求してきた。今回のチームは、大会プログラムによれば先発15人の平均身長は171aで、180aオーバーはゼロ。厳しいウエートトレーニングの成果だろう、筋肉はたくましくパンプアップされていたが、それでも平均体重は80`強にすぎない。数字だけ見れば全国の平均的なチームよりも小柄なほどで、ベスト8進出校の中では際立つ小ささだ。

 その天理高校のアタックでひとつのカギになっていたのも「まっすぐ」だった。むろん単調の意味ではない。複数の選手が連動しながらまっすぐディフェンスラインに向かって走り込み、ギリギリまで接近したところで鋭くパスを通す。相手は横にずれることができないから、ブラインドWTBやFBをライン参加させてオーバーラップの状態で空いている選手にボールがつながれば、きれいに入れ違いで裏へ出られる。裏に抜ければ前への推進力が体格差を埋めてくれるから、カバーディフェンスにつかまってもすばやくボールをリサイクルして、相手防御がそろわないうちに次のアタックを仕掛けられる。

 大会期間中、予選リーグで天理高校と対戦したチームの選手が仲間同士で話している会話を偶然耳にした。「ディフェンスでノミネートしている暇もなかった。目の前に来る選手にタックルするだけで精一杯」。それだけ連続展開が速かったということだ。天理高校の関係者や選手にすれば、これ以上ない賞賛かもしれない。

 果敢にして一貫し天理高校の戦いぶりを凝視しながら、「チーフスと同じだ」と思った。新チームが発足して半年ほどのこの時期に、これほどのラグビーを実現できるのは、日々のたゆまぬ鍛錬ゆえだろう。もっとも大阪桐蔭との準決勝後、こちらが感心するような21−36の奮闘にも、松隈孝照監督は「やろうとしたことをやり切れなかったのは残念。日本一練習します」と厳しかった。妥協を拒絶する姿勢に、戦力差を覆して数多の栄冠を獲得してきた伝統校の凄みがにじんだ。


【筆者プロフィール】
直江光信(なおえ・みつのぶ)
スポーツライター。1975年熊本市生まれ。県立熊本高校を経て、早稲田大学商学部卒業。熊本高でラグビーを始め、3年時には花園に出場した。著書に『早稲田ラグビー 進化への闘争』(講談社)。現在、ラグビーマガジンを中心にフリーランスの記者として活動している。
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