コラム

【藤島大コラム】 固定の是非

右タッチ際で光ったWTBセミシ・マシレワ(近鉄)は、チーフス戦がサンウルブズでの初出場。日本代表入りを見据えるナショナル・トレーニング・スコッドにも名を連ねる(撮影・松本かおり)

■「ラグビー選手なのだから、このくらいはできる」と信じてもらえれば、対象の個人は成長するような気もする。

 大声では唱えられない。いずれが正しいのか。3月17日、サンウルブズは、敵地ヨハネスブルグの旧称エリス・パーク、あの要塞のような、およそ世界中のチームにとって勝利の簡単でないスタジアムで、昨年度のファイナリスト、ライオンズに38―40と迫った。ところが、次節、ホームの秩父宮ラグビー場でチーフスに10―61の大敗を喫した。
 
 短い期間のどちらも現実である。そこで、ちらり、頭に浮かぶ。メンバーをもっと固定したほうが強いし、強くなるのではないか。チーフス戦では、そこまで最良の結果である対ライオンズから先発11人が入れ替わった。ずっと負傷者が続いて布陣は流動したが、この試合については、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が敗戦後の会見で語っている。

「純粋にセレクションして変えたのは初めて。選手によってはリフレッシュさせる必要があり、何人かには(移動後の)時差の問題も生じた」

 ローテーションというスーパーラグビー用語がある。ファイナルまで進めば半年にわたる長きコンペティション、すべてを「一軍」という発想では戦わず、計画的に選手を休ませながら、やりくりをする。ジョセフHCは、指導者として、ハイランダーズでの優勝経験があるから、その効果も、ときに生ずるマイナスも熟知している。

 ライオンズをあるところまで追い詰めながら、リーチマイケルとの縁、人気者のダミアン・マッケンジーの存在など、ファンが楽しみにしている東京でのチーフス戦で、あえて大きく先発を動かす。腹がすわっているとも解釈できる。

 スコアが物語るように、ことチーフス戦を切り取ると「原則固定」のほうがよく戦えたかもしれない。長旅から帰国、残留組の加わった練習は4日間、なかなかフィールドでの連携を築くのは難しい。キックの角度、チェイスなど細部を詰め切れず、崩れた状況からの切り返しで鳴る相手なだけに、ただちに失点へと結ばれた。

 歴史的には、日本の団体球技が世界のトップ級と伍すためには、長期拘束(前回w杯のエディー・ジョーンズHCの方法)とメンバーのなるだけの固定が求められてきた。骨格や幼少時からの経験の比較で追いかける側にあるため、ともに過ごす時間をなるだけ確保、緻密なコンビネーション、スタミナで上回らなくてはならなかった(ラグビーは厳格なアマチュアリズム堅持だったので長期拘束は許されなかったが、戦績を残した代表ではメンバー原則固定は行なわれていた)。

 ここで難しいのは、サンウルブズは「日本のチーム」の枠に収まらないことだ。東京を本拠にすえるものの、契約した選手は多国籍、背景もさまざまだ。初戦の対ブランビーズではフィールドに日本生まれの選手は2人という時間帯も訪れた。だからローテーションくらいへっちゃらでこなすべきだ。そう意見されれば考察に値する。

 昨年暮れ、リーチマイケルに『ラグビーマガジン』でインタビューすると、ニュージーランド(NZ)の指導者像を次のように語った。

「ラグビー選手なのだから、もともと、このくらいはできる。このくらいはわかるでしょう。それがNZのコーチの感覚なんです。選手の能力を信頼している。小さいときから遊びでスキルを身につけ、高校からスーパーラグビーまでの一貫したコーチングのスタンダードがあるので」
 
 せっかくライオンズとよき勝負ができたのに、がらりと顔ぶれを変える。もったいない。なんとなく「日本のラグビー」の感覚、まして国内でも挑戦者にシンパーシーを抱く立場なら、そう考えてしまう。しかし、スーパーラグビーに呼ばれるほどの選手なのだから、新たな先発で、ツアー後の短い日数しか練習できなくとも、ちゃんと戦えるだろう、と信じてもらえれば、対象の個人は成長するような気もする。ジャパンの強化、選手層を厚くする観点でも、ライオンズとチーフス戦に先発した者がたくさんいることは悪くはない。

 さりとて、勝って伸びるのは、チームも個も一緒である。歓喜、感激は理屈を超えて人間や人間集団を大きくさせる。白星に届かないにせよ、大敗よりも大善戦のほうが強化にはつながる。こちらもまた本当だ。国内の大学や高校ラグビー、自軍が大きく力で上回っているとわかる関係の相手にも、あえて固定されたベストの布陣で臨み、勝ちながらチームワークを培うチームづくりもある。

 ローテーション。机上の理か。はたまた選手への信頼のもたらす最終的勝利か。スーパーラグビーを想定すると、はっきり正解にたどりつけない。ひとつ確かなのは、この厳しい連戦では「そのつどの対策」と「未来へつながる文化の構築」を両立するチームのみがスーパーであるという事実だ。

【筆者プロフィール】
藤島 大(ふじしま・だい)
スポーツライター。1961年、東京生まれ。都立秋川高校、早稲田大学でラグビー部に所属。スポーツニッポン新聞社を経て、92年に独立。都立国立高校、早稲田大学でコーチも務めた。著書に『人類のためだ。ラグビーエッセー選集』(鉄筆)、『ラグビーの情景』(ベースボール・マガジン社)、『ラグビー大魂』(ベースボール・マガジン社)、『楕円の流儀 日本ラグビーの苦難』(論創社)、『知と熱 日本ラグビーの変革者・大西鉄之祐』(文藝春秋)などがある。また、ラグビーマガジンや東京新聞(中日新聞)、週刊現代などでコラム連載中。J SPORTSのラグビー中継でコメンテーターも務める。
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