コラム

【成見宏樹 コラム】プロフェッショナルのほっぺた


■そこは、各競技が人々を引き寄せる魅力を互いに競う、もう一つのコンペティションの場

 20年以上前、学生時代にこのモールを訪れたときは、現地にしかないラグビージャージーを掘り出すことばかり考えていた。

 2月9日、10日、オーストラリアはクイーンズランド州の州都で行われた10人制国際大会『ブリスベン・グローバル・テンズ』。その前日に、街の中心、オフィス街に囲まれたクイーン・ストリート・モールを歩いた。さまざまな店舗が並ぶ歩行者天国。ブランド品からアイスクリームまで。ショッピング、食事はもちろんカジノでのチャレンジも。街の楽しみなら何でも揃っていそうな通りに、ちょっと変わった建物を発見した。

ブリスベン・グローバル・テンズの大会告知ブースそば。シアター跡の建物が、ビジネスビルの入り口に化けた(撮影:早浪章弘)

 グローバル・テンズの大会告知ブースの近くに見えたクラシックなエントランス。1年前までは伝統あるシアター(映画館)だったこの施設、現在はブリスベン市が誘致するビジネス・ビルの一部となっている。スタートアップ企業(新しいビジネスモデルを武器に、急成長する企業)のサポート、育成を目的に、コワーキングスペース、セミナーなどを展開する団体が複数入る。

「オーストラリア第3の都市であるブリスベンは、観光だけでなく、IT、教育、金融などの面で発展を続けています。このビルの中では、スタートアップが2つのレベルに分けられていて、すでに実績のある企業は上のフロアに。これからの企業や人材には期間を決めて下層階のスペースを開放(たとえば観光客も自由に出入りし見学できる。シアター1階は観光情報センター!)。ここでビジネスの繋がりを作ったり、興味があれば、開講されているセミナーに参加して知識やヒントを得たり」(クイーンズランド州政府観光局のショーンさん)

 経済を一つの指標にして、文化的な価値を高めようという街の意識を感じた。

 そのために、すでにあるものを強化するだけでなく、ここから世界へ向けて新たな発信もできる街であろうとしている。「観光はブリスベンの重要で大きな部分。けれど、すべてではない」(ショーンさん)。

 素敵なラグビーリーグのジャージーやその後ろにある豊かなスポーツの文化も然り。日本の楕円球ファンからすればオーストラリアはラグビー大国だが、たとえばブリスベンのスポーツにとってラグビーは「重要な一部」。現地に住むビジネスマンの引いた目線を借りると、この競技がいっそう新鮮に映った。

 国際ラグビー大会の開催に、シアタービルへのスタートアップ誘致。こうした多角的な行政の取り組みに触れると、市にとっての観光の位置づけもあらためて感じ取れる。そして、観光の面から見ると、この街の多様なスポーツ文化は、間違いなく重要な資源だと言える。観光とスポーツ、互いを活用しあって相乗効果を見据えている。

『ブリスベン・グローバル・テンズ』は、ニュージーランドのスポーツ・プロモート会社が(自国ではなく)ブリスベンを開催地に選んで催した画期的な国際大会だ。

 スーパーラグビーの開幕前にスターを集め、華やかな演出を伴ってシーズンへの期待感を盛り上げる。10人制というユニークなフォーマットで、この競技の魅力をぎゅっと凝縮したゲームをディスプレーする。ニュージーランド、オーストラリア、ヨーロッパ、フィジー、そして日本(パナソニック ワイルドナイツ)から個性あるチームを招いて、観客を魅了しにかかる。

 ラグビーユニオン(日本で言うラグビー)、ラグビーリーグ、オージー・ルールズと、楕円球スポーツだけでも3つの競技がひしめくブリスベン。そこは、各競技が人々を引き寄せる魅力を互いに競う、もう一つのコンペティションの場でもあった。まさに多様性際立つ街の中で、ラグビーはどれだけ輝けるのか。観光とスポーツ、それぞれの厳しいビジネスの真ん中で、ラグビーのチャレンジが続いていた。

 クイーン・ストリート・モールの中央にはグローバルテンズの大会ブースが設けられ、試合前週から積極的なアピールイベントを行なっていた。時間帯を予め告知し、チームごとに中心選手を招いて、軽快なMCの進行でミニトークショーやファンサービスを開催する。テレビでの試合放映はもちろん、ネット媒体やSNSを活用した宣伝活動がさかんに行われる。それでも、街なかをラグビー一色の空気に染めるまでには至らない。

 大会前日、ブースに招かれた最後のチームは、昨年優勝のチーフス(ニュージーランド)。東芝在籍のバックロー、リアム・メッサムが、小さな小さな女の子の差し出したボールにサインをし、満面の笑みで手渡した。

 メッサムのほっぺたのゆるみに、見ているこちらがほっとする。心の中から湧いてきた笑みだ。それは考えてみれば、よりシビアなプロフェッショナルだから実感する喜びだったかもしれない。内なる戦い、ポジション争いやチーム同士の激しい競争の外に、ビジネスとして「こちらの」ラグビーを背負う戦士ゆえの喜び。ボールを手渡した女の子があんなにもうれしそうな顔をしてくれたら、一緒に未来も託しているような気持ちになるのかもしれない。

(文:成見宏樹)


クイーンズランド州政府観光局公式HP→ https://www.queensland.com/ja-jp

「ブリスベン・グローバル・テンズ」大会公式HP→


『リージェント・シアター』の入り口がそのまま活用されているビル『ザ・キャピタル』

クイーン・ストリート・モールの大会ブース。結構な大音量で存在をアピール。各チームの中心選手が、次々と現れる
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