コラム

【小林深緑郎 コラム】 欧州3連覇狙うイングランドの第1週、第2週に注目

プレミアシップでハリクインズと対戦時のサラセンズPRマコ・ヴニポラ
(Photo: Getty Images)


■負傷者相次ぐイングランド。2月10日のウエールズ戦が前半戦の山場となるのではないか。


 2月3日に開幕する2018年シックスネーションズ(欧州6か国対抗戦)では、エディー・ジョーンズ監督率いるイングランドが3連覇を、それもグランドスラム(全勝優勝)を達成できるのかが焦点となっている。そして、イングランドに対抗するもうひとつの優勝候補とされているアイルランドとの激突は、最終節の3月17日にトゥイッケナムでおこなわれる。

 エディー・ジョーンズを監督に迎えてからのイングランドのテストマッチの成績は、2016年が13戦全勝、2017年が10戦9勝1敗、計23戦22勝1敗は勝率95.7%である。昨年のシックスネーションズのダブリンでの最終節にアイルランドに9−13で敗れたのが唯一の敗戦で、このため連勝は17でストップし、オールブラックスのテストマッチの連勝記録を上回ることはできなかった。その後は、現在まで新たにテストマッチに5連勝という成績で、今年のシックスネーションズを迎えている。

 過去2年のイングランドのシックスネーションズの記録は、2016年が得点132(13トライ)、失点70(4トライ)であり、2017年が得点146(16トライ)、失点81(8トライ)となっていて、これだけでは特筆すべき変化は読み取れないものの、アタックのバラエティー、バックスによる決定力が増してきたことは間違いない。

 イングランドは1月22日から1週間のポルトガルでの合宿を経て、帰国後の29日からはイングランドチームのベースとなっているサリー州バグショットのペニーヒル・パークに籠(こも)って、2月4日(日)にローマでおこなわれるシックスネーションズのイタリアとの開幕戦に備えることになっている。

 今年も、各チームが負傷者や出場停止中のプレイヤーを少なからず抱えており、そのなかでのシックスネーションズのスタートとなるために、メンバー編成がまだ整わない開幕週と2週目には、波乱が起きる可能性もなきにあらずなのである。

 負傷者といえば、イングランドの場合、中心選手の怪我が多い。とはいえ、初戦のイタリアとは力の差が小さくないだけに、ここは乗り切れるのだろうが、翌週のトゥイッケナムでのウエールズ戦が、ちょっとしたヤマとなるのではないだろうか。

 イングランドのメンバーのなかでも、エディー・ジョーンズ監督のSOジョージ・フォード好き、FWのヴニポラ兄弟好きは良く知られたところである。そして、フォードに関しては体調は万全で何の問題もない。異変があるのは、エディーさんが常々「世界一のNO8」と口にしている、問答無用のボールキャリー・ゲイン能力を誇るビリー・ヴニポラに関してである。ビリーは1月14日の欧州カップ戦で前腕を骨折し(ヒビ)、シックスネーションズへの出場が困難な状況にあるのだ。

 ビリーの大怪我はエディー体制で4度目ということである。このポジションを、昨年、ビリー・ヴニポラに代わって務めていたのがフィジー生まれの巨漢NO8ネイサン・ヒューズである。
 ところがあいにく、彼も現在、膝を負傷してリハビリ中とあって、もしシックスネーションズに出場できるとしても最後の頃になって、という状況なのである。

 となると、最近はFLでの出番が多いジェームズ・ハスケルの経験値の高さを買って、NO8で起用したいところなのだが、どっこい彼は1月第2週末におこなわれた欧州カップ戦で、ウエールズのCTBジェイミー・ロバーツを半ば失神させた、頭部への危険なショルダータックルで退場処分となり、4週間の出場停止の処罰を受けていて、シックスネーションズの試合はウエールズ戦まで2試合に出られないのだ。

 ということで、昨年11月25日のサモア戦に8番で先発したサム・シモンズ(エクセター・チーフス)、23歳、3キャップ保持を先発させるのが手堅い起用といえるだろう。だが、相手はイタリアなので、というちょっと甘い考え、ここは色気をみせて新人選手を起用してみようか、などと考えても不思議はない。

 となると、昨年11月のテストマッチシリーズに、見習い選手としてチームに帯同し、今回初めてイングランド・スコッド入りしたザック・マーサー(バース)、リーズ生まれの20歳にもイタリア戦への出場チャンスがあるのではないか。ザック・マーサーの父ガリー・マーサーは、ニュージーランドの13人制(ラグビーリーグ)の代表歴22キャップがあり、イングランドのRLリーズ・ライノーズで主将を務めたあと、キャッスルフォード・タイガーズの監督を務めたキャリアがあるということだ。

 イングランドの抱える負傷者トラブルはNO8のみならずで、それ以上にエディー・ジョーンズ監督を悩ませているのが左PRのポジションなのである。膝を故障中のマコ・ヴニポラについて、エディーさんは「125キロの体重で、試合中に20回のタックルを決め、10回のボールキャリー、(ラックで)20回のクリーンアウト、スクラムを15回組んで、ラインアウトで18回リフターを務める」、と驚異の仕事ぶりを絶賛している。

 イングランドの左PRは、マコ・ヴニポラの負傷に加えて、ジョー・マーラーがウエールズ戦まで出場停止中、昨年からキャップを得てきたエリス・ゲンジは12月に肩を手術し出場は3月頃、マット・マランもひじの負傷中とあって、このポジションでも、初めてイングランドスコッドに選ばれたノンキャップの若手2人のいずれかがイタリア戦に出場することになりそうなのだ。

 ルーイス・ボイス(ハリクインズ)はまだ21歳で、身体の強さから将来を期待されている従来タイプのPR。もうひとりのアレック・ヘッバーン(エクセター・チーフス)はオーストラリア生まれの24歳。2016年にイングランドA代表サクソンズで南アフリカに遠征し、南アA代表と戦って、優れた機動力を発揮してトライを記録し、スピーディーな運動能力の持ち主として知られる存在となった。また、エクセターでも昨季のプレミアシップ優勝に貢献しているモダンタイプのPRだ。

 初テスト、初シックスネーションズの舞台で持てる力が出し切れないようなことになれば、イタリアがイングランドに対して、予想外の接戦を演じることもありうる。スクラムでイングランドの新人PRにプレッシャーをかけることができれば、試合がおもしろくなる可能性はある。

 それ以上に、イングランドの2戦目の相手、ウエールズにとっては、国内で今年の優勝を期待する声は例年より低調ということもあって、プレッシャーも少ないなかで戦いやすいのではないだろうか。やはり勝利への突破口はスクラムということになるだろう。今年のシックスネーションズ、イングランド対ウエールズ戦は2月10日(土)におこなわれるが、この試合が選手権の前半戦の山場となるのではないか。秘かに波乱が起きはしないかと注目しているところである。


【筆者プロフィール】
小林深緑郎(こばやし・しんろくろう)
ラグビージャーナリスト。1949(昭和24)年、東京生まれ。立教大卒。貿易商社勤務を経て画家に。現在、Jスポーツのラグビー放送コメンテーターも務める。幼少時より様々なスポーツの観戦に親しむ。自らは陸上競技に励む一方で、昭和20年代からラグビー観戦に情熱を注ぐ。国際ラグビーに対する並々ならぬ探究心で、造詣と愛情深いコラムを執筆。スティーブ小林の名で、世界に広く知られている。ラグビーマガジン誌では『トライライン』を連載中。著書に『世界ラグビー基礎知識』(ベースボール・マガジン社)がある。
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