ギョウザ耳列伝

ギョウザ耳列伝 vol.14 真壁伸弥

「ギョウザ耳は、スクラム強化の副産物」

真壁伸弥
(仙台工業高―中央大―サントリー)

makabe mimi


 日本選手権が始まった。
 トップリーグのプレーオフトーナメント進出をぎりぎりで逃したサントリーにとっては、名誉挽回のステージである。
 2月8日の1回戦では筑波大を蹴散らした。東京・秩父宮ラグビー場の記者会見場。「日本選手権にかける意気込みは?」と問えば、タフガイの真壁キャプテンは短く言い放った。
 「獲りたい」
 えっ? と、こちらがからだを前に出せば、キャプテンは言葉を足した。
 「獲りたいです。優勝を、獲りたいです。獲りたいから、1戦1戦、目の前にある試合をしっかり勝っていく。そういう気持ちです」
 単純明快。明朗闊達。いかにもラガーマンらしいラガーマンである。主将3年目。からだを張り、チームをけん引する。ヒタイには擦り傷、打撲の跡がのこる。左足には、氷のビニール袋のアイシング。
 記者席の最前列から、真壁の右耳を見れば、あぁよかった、ちゃんとつぶれている。記者会見が終わり、シャワーを浴びたあとのキャプテンを暗い通路でひたすら待った。
 チームの最後に出てきた。左足を引きずりながら、やっと真壁主将がやってきた。
 さりげなく、ニカッと笑って、本稿の『ギョウザ耳列伝』の話を投げかけた。

 真壁主将の顔から笑みがスーッと消えた。
 「出ちゃうんですか。ワタシでいいんですか、ほんと。ワタシは、できるだけ、ギョウザ耳をつくらないように頑張ってきた人間ですよ」
 謙遜なのか、イヤなのか。冗談なのか、本気なのか。想像がつかないまま、「でも大久保直弥監督のご推薦です」と言ってみた。刹那、真壁主将の背筋が伸びた。
 「ありがとうございます」
 愉快なオトコである。では、ギョウザ耳のストーリーを。
 「いつから?」
 「わからないんです」
 「えっ。ほんとうに?」
 「はい。記憶、ございません」
 暗い通路にふたりの笑い声が響き渡る。遠くの実直そうな警備員が心配そうにこちらを見ている。不気味な二人に映ったのか。
 「サントリーに入ってですか?」と質問を重ねれば、真壁主将は真顔で説明を始めた。
 「たしか、結構最近まで、自分はキレイな耳だという自信があったんです。しかし、去年です。アイツのせいです。いや、あのコーチのせいです」
 誰のことかと思えば、日本代表のスクラムコーチのマルク・ダルマゾさんのことだった。ご存じ、フランス代表の元フッカー。泣く子も黙る鬼コーチである。
 「そう、スクラムコーチのダルマゾコーチのせいです」
 そう言って、日本代表のロックは顔をしかめた。
 「ジャパンのスクラムの練習のせいなのです。それまでは、しっかり耳を折って、きれいな耳を保っていました。ワタシの耳は、スクラムのギョウザ耳なので。タックルは、顔面からいかないので大丈夫なのです」
 でも、試合後の真壁主将の顔はいつも、赤アザができている。素朴な疑問です。なぜでしょうか?
 「それは顔面から地面に落ちるからです。ははは。亀ラックで。ははは」
 これまでは、スクラム練習でも「プロップの尻に耳をつけて擦れないようにしたり、耳を折ったり」して、ギョウザ耳回避の細心の注意を払っていたそうだ。
 「でも、ダルマゾさんはスクラム練習をやり過ぎて…。あの人は回数をたくさん組ませるんです。しかも、ふだんのスクラムではありえない動きをさせるんですよ。横に動かしたり、下に落としたり、上にいったり…。そのせいで耳がずれるんです」
 手振り身振りで説明するものだから、こちらは笑いをかみ殺すので必死だった。
 「それで、つぶれたっス」
 しばし沈黙。薄暗い通路に静寂がひろがる。空気を変えるため、「では、ジャパンのスクラムが強くなった副産物みたいなものですね」と強引にもっていく。
 「そうです。いらない副産物です。耳はキレイなままでいたかったのに…。そりゃ、練習量が増えたから、ジャパンのスクラムは強くなった。ジャパンのスクラムが強くなった証拠と言われれば、そうですけど」
 ならば、耳のつぶれがいがあったわけですね。ぎこちない笑顔でそう振れば、「そう、言わせようとしていますね」と一笑に付された。
 「はい。ワタシの耳は、つぶれがいがありました」
 ナンダカンダ言いながらも、耳がつぶれるとメチャクチャ痛い。痛みを和らげるため、「たまにヘッドキャップをかぶっていた」という。でもヘッドキャップはやはり、自分のキャラに合わない。だから外した。
 「痛みはほんと、イヤでした。(チーム)ドクターがいるので、血は抜きました。で、いつのまにか、固まりました」
 ふーっと深いため息をつく。
 「キレイな耳であってほしかった、いつまでも」

 ことしはワールドカップイヤーである。真壁キャプテンのW杯にかける意気込みは尋常ではない。前回の2011年W杯ニュージーランド大会では、ずっと代表メンバーに入っていたのに、最後の最後にケガで出場を逃した。だから、どうしてもW杯に出たいのだ。
 「ラグビーをやっている限り、目指すのはそこです」
 目標が、1次リーグ3勝で準々決勝進出である。1次リーグでは、南アフリカからスコットランド、サモア、米国とつづく。
 「自分はとくにスコットランドにターゲットを合わせています」

 通路で長い時間のトークが終わる。最後に「ハイ、パチリ」と耳の撮影である。フラッシュを光らせば、画像がやたらと明るくなった。「こりゃまずいな。光り過ぎ」とこぼせば、真壁キャプテンは「何でもいいですよ」と笑ってくれた。
 「カッコいいとか、キレイとか、ワタシには関係ない話なので…。もう、まったく無縁なんです。どんな写真でもOK。写真はなんでも使ってください」
 話題はぐるり、ぐるりと回り、再び、日本選手権の話にもどった。
 また、タフガイは言う。
 「獲ります。(日本選手権を)獲らないと、気持ちよくないですから」
 ことしのターゲットはW杯。でも、その前に、ギョウザ耳の真壁キャプテンはやらないといけない仕事があるのである。
 日本選手権タイトル奪取!
(文:松瀬 学)
2015年2月10日掲載

【筆者プロフィール】
松瀬 学(まつせ まなぶ)
ノンフィクションライター。1960年生まれ。福岡県立修猷館高校、早稲田大学のラグビー部で活躍。早大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク支局に勤務。2002年に同社退社後、ノンフィクションライターに転身。人物モノ、五輪モノを得意とする。『汚れた金メダル 中国ドーピング疑惑を追う』(文藝春秋)でミズノスポーツライター賞受賞。著書に『日本を想い、イラクを翔けた ラガー外交官・奥克彦の生涯 』(新潮社)、『ラグビーガールズ 楕円球に恋して』(小学館)、『負げねっすよ、釜石 鉄と魚とラグビーの街の復興ドキュメント』(光文社)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)など多数。

(プレー写真撮影:BBM)
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