ギョウザ耳列伝

ギョウザ耳列伝 vol.10 大峯功三

「ぼく、不器用ですから」

大峯功三
(福岡・東筑高―早大)

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 「自分、不器用ですから…」
 先日他界した高倉健さんの粋なフレーズである。寡黙、哀愁、オトコのやさしさ。オトコがほれるオトコだった。
 その健さんの母校、福岡・東筑高の後輩にあたるラガーマンもまた、そんな九州男児である。しかも、ギョウザ耳。
 早慶戦のあとだった。どうして、耳が潰れたのか、と問えば、アカクロジャージィの早稲田主将は夕暮れの薄暗い秩父宮ラグビー場の門あたりで、健さんのような口調でぽつりとつぶやくのである。
 「ぼく、不器用ですから…」
 どちらかといえば、プレースタイルは地味だろう。182センチ、97キロのサイズも、ロックとしては大きくはない。でも、いぶし銀のごとき、輝きを放つ。実直、マジメ、愚直…。献身的なプレーを見ると、鳥肌が立つほど感動するのである。
 謙虚だ。こちらは、こんな風変わりな連載に大学生に登場願うのはどうかと心配して、「あの…。あの…。ギョウザ耳連載に出てもらってもいい?」と恐る恐る聞いてみた。
 顔がパッと明るくなった。
 「全然、大丈夫です」
 でも、とコトバを続ける。
 「ぼくでいいんですか? 原稿、読んでいます。あれ、すごい人たちばかりが載っているじゃないですか」
 よかオトコである。礼節をわきまえ、しかも腰が低いのだ。東筑高から自己推薦でワセダのスポーツ科学部に入学した。1年生の時、ナンバー8でいきなりレギュラーに抜てきされたが、2年、3年時はレギュラーに定着できなかった。
 それでも、くさらず、焦らず、あきらめず。練習で手を抜くこともなく、コツコツと己を鍛え、アカクロ軍団をプレーで引っ張るまでになったのである。その気持ちの強さ、努力の総量は、耳をみれば、すぐわかる。
 ちょっと耳を拝見、と話題を振れば、顔をくるくるっと左右に回して、右耳も左耳も見せてくれた。
 「両方ともぐちゃぐちゃです」

 東筑高時代はナンバー8を務めていた。耳は綺麗なものだった。大学にはいって、耳のカタチが一変する。レギュラーの座を勝ちとって迎えた1年時の秋のシーズン直前のことだった。タックルに命をかけていた。
 得意が右。“タックルあり”のアタック・ディフェンスの時だった。「ちっちゃかったので、なりふりかまわず」、右側でBチームの先輩にタックルにいった。右耳を強打した。
 「練習が終わったら、右耳がむちゃくちゃ熱くて…。先輩に耳のことを聞いたら、“それはもう、終わったよ”と言われました。意味がわかりませんでしたが、耳が少しずつ腫れてきて…」
 痛い。耳にたまった血を病院に抜きにいった。でも練習は休めない。耳に白色のパットをつけて、黒いヘッドキャップをかぶって練習をつづけた。
 「そうしたら、耳にたまっていたのが、練習中に破裂して。そこからは、当たっても血が出るし、ぐちゃぐちゃで耳のカタチがおかしくなりました」
 練習中に血が噴き出しても、青いタオルで赤い血をふいて、耳のあたりをタオルでぐるぐるまきにしてヘッドキャップをかぶった。その根性、オトコ気、まるで寡黙な健さんじゃないの。
 「1年生だから、何も言えませんでした。もういっぱい、いっぱいで。ただがむしゃらに練習をやっていました」
 苦行はつづく。左耳がつぶれたのは、2年生になってからだった。タックルとスクラム練習で、少しずつ膨れていった。大学選手権の流通経済大学戦のときだった。相手フォワードのうるさい選手に狙ってタックルに入った。冬の星空を見上げ、痛そうに回想する。
 「パンッと耳が破裂したのです」
 その後も、一度、二度、それぞれの耳がつぶれ、二重三重に膨れ上がった。別品のギョウザ耳となった。
 「右も左も痛い状況がつづいた。でも、自分が痛いことよりも、チームのことが大事だったので…。(学んだことは)割りきって、プレーするということですね。間違いなく、我慢強くなりました」

 痛くても弱音を吐かず、練習に没頭してきた。4年生となった2014年度。輝かしいキャリアを誇る布巻峻介や小倉順平ではなく、大峯がワセダの主将に推された。
 「僕自身、今まで、キャプテンをやったことがなかったのです。ずっとヒラ(部員)でした。やることがいっぱいあって、大変は大変ですけど、何も知らなかったことをプラスにしてやろうかなとしてきました」
 ワセダは毎年、大学日本一を宿命付けられている。正直、昨年のチームに比べて、戦力は落ちるかもしれない。でも、大峯に象徴される粘り強さ、勝利への執着、ひたむきさは決して、他の年代にひけは取らない。
 ギョウザ耳のラグビー界の“健さん”はまっすぐこちらの目を見据えた。
 「優勝の目標は絶対、ぶらしたくない」
 “絶対”というコトバがトーンが上がった。「絶対に」と繰り返す。
 「ことしのメンバーで勝つことが、すごく大事なんです。僕自身、花園には出ていないし、高校ジャパンにもなれるレベルじゃなかったんです。そういうオトコが集まって、強くなって、優勝したら、すごいものを周りに与えられると思うんです。見ている人が励まされるんじゃないか、って」

 “Stay hungry. Stay foolish.”と故スティーブ・ジョブズは言った。「ハングリーであれ、愚か者であれ」ということだ。ギョウザ耳のキャプテンが愚直にチームを引っ張る。
 大学日本一の座へ。
(文:松瀬学)

2014年12月12日掲載
※ 『ギョウザ耳列伝』は隔週金曜日更新

【筆者プロフィール】
松瀬 学(まつせ まなぶ)
ノンフィクションライター。1960年生まれ。福岡県立修猷館高校、早稲田大学のラグビー部で活躍。早大卒業後、共同通信社に入社。運動部記者として、プロ野球、大相撲、オリンピックなどの取材を担当。96年から4年間はニューヨーク支局に勤務。2002年に同社退社後、ノンフィクションライターに転身。人物モノ、五輪モノを得意とする。『汚れた金メダル 中国ドーピング疑惑を追う』(文藝春秋)でミズノスポーツライター賞受賞。著書に『日本を想い、イラクを翔けた ラガー外交官・奥克彦の生涯 』(新潮社)、『ラグビーガールズ 楕円球に恋して』(小学館)、『負げねっすよ、釜石 鉄と魚とラグビーの街の復興ドキュメント』(光文社)、『なぜ東京五輪招致は成功したのか?』(扶桑社新書)など多数。

(プレー写真:早明戦で突進する早稲田大主将、大峯功三/撮影:TOSHIHARU YANO)
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